Waiting Here -Part Nine -


 

まるで全身が燃えているようだった。その炎が全てを浄化していく。100年以上の歳月、彼が地上をさまよってきたこの長きにわたり、過ごしてきたどんな場所も、触れたことのあるどんな肉体も、こんな風に自分に火を点けたものはいなかった。

それはまるで太陽に突っ込んでいくかのようだった。でなければ灼熱にたぎる溶岩の大海に飛び込むのに似ていた。

混じり気のない純正なものが彼の血管という血管を激流のように走り、他のあらゆるものを流し去っていく。感じるのは、ただこの温かい体から溢れるように伝わってくる、希望と、真実と、そして二人の体を包み込む愛と欲望の香りだけだった。

スパイクは自分の手をザンダーの髪に潜らせ引き寄せると、きつく、深く、ザンダーの唇に自分の唇を合わせた。ザンダーの下唇を舌でなぞり、甘く噛んで中の熱さを求める。

ザンダーが欲しい。ザンダーを手に入れたい。だが自分はザンダーが求めないことは絶対にしない。決して奪わない。ただ懇望するだけだ。

全身の筋肉が、奪ってしまえ、奪って、お前に触れるその熱い肌を味わってしまえと叫んでいたが、しかし彼は死に物狂いでその暴力的な衝動を捻じ伏せていた。

だめだ。まだかろうじて残っている自制心が彼を押し止めた。

彼にはザンダーがキスに応えることも、自分の背中をザンダーの手が夢中になって走るのも、唇を開いて自分の舌を求めるのも、まだ信じられなかった。あんなことがあった後で。スパイクは自分の欲望の強さが畏ろしいほどだった。

だがどんなにザンダーの中に入りたいと、一体になりたいと思っても、自分は待つ。待たねばならないのだ。彼は決して彼の愛する者を傷つけることはできないのだ。

ザンダーがスパイクの口の中で低くうめいた。

すごく冷たくて、そして…正しかった。彼の夢見たもの全てがここにあって、しかも夢以上だった。いや、夢よりももっとずっと良かった。これだ。これだったんだ。

目をきつく閉じ、このキスだけに全ての意識を集中する。舌と舌とが絡み合い、まるでダンスをしているみたいだ。くらくらと眩暈がする。もっと、とザンダーはスパイクを引き寄せた。でも二人の体はすでにぴったり重なり合っていて、それ以上近寄せられる余地などない。

でもまだ足りないんだ。ザンダーはもどかしくて気が狂いそうだった。まだ、もっと近くに来て欲しい。スパイクが欲しい。スパイクの一部になってしまいたい。一緒に、そう、一つになりたい。

ついにザンダーは唇を離し、酸素を求めて大きく息を吸った。呼吸しなければならないという自分の運命を心の片隅で呪う。

喘ぎを繰り返しながら、彼はスパイクの肩に頭おしあてた。自分のさっき流した涙のせいで湿っている。乱暴なほどにスパイクの背中をまさぐって、頭を傾けてスパイクの首筋にキスをした。とたん、スパイクのハスキーな声が、自分の名を悲鳴のように呼んだ。

「ザン、」

あがった声はかすれ切っていた。

「ああ、いい、そこだ、ザン、そこだ」

ザンダーはもう肌にじかに触れたいという圧倒的な情動に突き動かされるまま、スパイクのシャツをたくし上げはじめた。

ザンダーの生暖かい口が自分の顎のラインをなぞり上げていく快楽に、スパイクは頭を仰け反らせながら目を閉じていく。

もうこれ以上は無理だと思うはしから、ザンダーは新手の舌技を繰り出してきて、さらに自分を欲望の高みにまで連れて行くのだ。

《なんてこった、こいつ、いったいどこでこんな事を習ったんだ》

「くそ、いい、そこだ、ザン、もう一度 …Bloody hell」《Bloody hell, 良すぎる、やめないでくれ》

ザンダーの手が自分のシャツの裾をジーンズから引っ張り出し、もう片方の手が喉から首筋をたどっていく。餓えたような口が鎖骨をなぞり、窪みのところで止まる。ザンダーはそれを何度も繰り返した。まるで本当は違うところを舐めたいのだというように。スパイクは恍惚のあまり唇を震わせた。

しかしやっとの思いで理性をかき集め、手をザンダーの両脇にさしこんで肩を抱くようにつかむと、そっとザンダーを引きはがした。

抗議の声があがるのを聞いてはいたが、しかし続けるのは許さなかった。今やめなければならないのだ。あともう一分でも続けられたら、自分は確実に限界を踏み越える。

勿論やめたかったわけがない。愛しいものの体のことしか考えないでいたかったし、ザンダーを何度だって官能の絶頂に突き上げてやりたかったし、ありのままのザンダーの姿を崇め、愛してやりたかった。

だがそんなことはできなかった。今はできなかったのだ。ちゃんと確認しなければならなかった、これは本当に、お前が望むことなのか?と。ザンダーに選ばせねばならないのだ。自分ではない。

「ラヴ,」

スパイクは気を静めるために、大きく息を吸ってから言った。《Love. Say it. Love(愛してる。そう云え、“愛してる”と)》

「ラヴ,」

もう一度やり直して、ザンダーの瞳をじかに覗き込んで、彼は胸を殴られるほど驚いた。そこにあるものは純粋な情欲だった。自分を欲しいという、欲望と、情熱と、愛だけがあった。

ぐっとせりあがった抵抗不能なほどの欲動に、そのまま我を忘れてキスに逆戻りしなかったのはほとんど奇跡といってもいい。だがこのことは、ちゃんと口に出して言われる必要があったのだった。それも今、この場でだ。

「待ってくれ…お前は本気なのか?本当にこうしたいと思ってるのか?」

さっと美しい黒い瞳が翳り、ザンダーはわずかにあとずさった。スパイクは握る力を強くしてぐいと引き戻すと、

「ちゃんと言ってもらいたいんだ。本当にお前はこうしたいと思ってくれているのか?俺たちはこれ以上先にすすまなくてもいいんだ。俺はお前がしたいことならなんでも付き合う。いや、お前がしたいと思うことしかやらない。俺はただ…」

スパイクは一瞬だけ目を伏せた。理性をかき集め、意識して深く息を吸ってから、ゆっくりとそれを吐き出す。

《ヴァンパイアの俺にゃ、こんなことしても何にもならねえけどな…》

「───俺はただ、判っておいてもらいたいんだ。お前は俺のことを考える必要はないってことを───俺はお前の嫌がることを、傷つけるようなことを、絶対にしたくないってことを」

声がしゃがれた。ザンダーの父親が自分の少年にのしかかっていた、あの情景が脳裏に浮かぶ。

「俺は絶対に…」

涙がこみあげた。嗚咽がもれそうになる。

《くそ…情けねぇ。俺がめそめそしたってしょうがねぇんだよ》

「俺は絶対にお前を傷つけない。絶対にお前を傷つけるような真似はしたくないんだ」

ザンダーは心臓が止まるような気がした。真実の響きがスパイクの言葉の裏から放射される…。

《これが彼の知覚している世界なんだ。感じることで全てを知ることができるんだ…》

スパイクが自分を引き戻した時、彼は手をスパイクの腰に触れていて、そのまま本当は鍛え上げられた硬い腹筋を指でたどりたくてうずうずしていたのだが、しかしこれを聞いて彼はスパイクの頬に手を置くとそっと自分の方を向けさせた。なぜ彼がためらっているのかがわかると同時に、心がくしゃくしゃに壊れてしまうんじゃないかと思った。もし以前にちょっとでもスパイクの気持ちを疑ったことがあったとしても、この瞬間にそんな疑いは全て消滅していた。

自分は"William the Bloody"を腕に抱いているのだ。伝説のスパイクを、かの有名なスレイヤー・オブ・スレイヤーズ(スレイヤー殺し)を。"マスター"を…他のヴァンパイアに君臨し、どこにでも行きたいところに行き、欲しいものはなんでも奪ってきた、その名そのものが恐怖と尊崇の代名詞になっていた、その強大な支配者を。

その彼が、いまザンダーを引きとめているのだ。続けることしかのぞんじゃいないくせに、自分の"許し"を求めて踏みとどまっている───いや、"許し"なんかじゃない。彼はこれがザンダーの望んでいることなのだという"保証"を求めているだけなのだ。主導権はお前に在るのだと、全ての決定権はお前にしかないのだと、そう教えてくれるために。

ザンダーはふるえるような細い吐息をついた。そうだ。確かに自分の中の一部分は怯えていた。父親にされたことの記憶のせいもあったが、しかしそれ以上にこれまで自分には同性との経験がないということのほうが大きかった。スパイクにはそういう経験があるのかどうかも、彼は知らなかった。
だがこの不安を除けば、今までの人生でこれほど自分が確信に満ちてやりたいと望んでいるものはなかった。自分はこうしたいのだ。自分はやっと"家(Home)"を見つけたのだ。自分自身であれる場所を。幸福な場所を。

「スパイク、よく聞いて。僕は君が欲しい。ずっと欲しかったんだ。自分にそうなんだって認めるのに時間はかかったけど…でもこの数週間は、いっしょに寝てるときはずっと、向き直って君に直に触れたい気持ちを抑えるので精一杯だったんだよ」

彼はさまざまな色がスパイクの青い瞳のなかに踊るのを見た。 安堵、喜び───でもそこにはまだ僅かなためらいがあった。

まただ。彼の心はよじれるように痛んだ。まだスパイクはためらってる。自分が本気で言っているのだとスパイクに信じてもらうには、たった一つの言葉しか彼には思いつかなかった。彼は深く息をすいこんで、それから続けた。言ってしまったら取り返しはつかない。その緊張はほとんど耐えられる限界すれすれだった。

身を寄せ、スパイクの唇にゆっくりと自分の唇を押しつけた。それから身を引き、もういちどスパイクの目を正面から見る。

「お願いだよ、スパイク。僕を抱いて。どうすればいいのか教えて。君を喜ばせたいんだ。君が欲しい。君が必要なんだ。今まで生きてきてこんなに欲しいと思ったものは他にないんだよ。お願いだ」

彼は吸血鬼の胸に体をぎゅっと押し付けると、がむしゃらなキスをした。祈るような思いで冷たい唇に舌を差しいれる。

《わかって。僕は本気だ》

唇を押し当てたまま、彼は吐息のように囁いた。

「Please.」

スパイクは低い唸り声をあげ、乱暴にザンダーの髪をわし掴むや、食いつくようにザンダーの唇を奪った。

ザンダーがここまで考えていてくれるとは、ここまで自分を求め、欲望してくれているなどとは、考えてもいなかった。二人はけもののように触れられる限りの互いの体を口でさぐりあった。

スパイクはザンダーを抱きしめたままカウチに仰向けに倒れこんだ。自分の上にかかる体重がたまらなく嬉しい。ザンダーのくせ毛が顔にかかって、頬を滑って喉に唇が押し当てられる。自分を求めるザンダーの熱い塊が自分の足に押し付けられているのを感じる。けれどザンダーがシャツの下に手を滑らせ、またキスをしかけてきたときには、そんな思考すらもどこかへ吹き飛んでしまった。

今度のキスは前のと違っていた。ゆっくりと、深く、長く、舌を絡めあう。今度のは激情に流されるままのではなく、互いの味を知り、記憶しておこうとするものだった。

ザンダーの息継ぎのために、二人はまた少し身を離した。隙を盗んだスパイクは、その間にザンダーの喉に指をすうっと辿らせた。ザンダーがその官能的な感触に大きく喘いで喉を仰け反らせるのを見、スパイクの心臓は締め付けられた。

こいつは本当に自分を信用しきっているのだ。吸血鬼の自分を前に喉をこんなに晒しているのに、ほんの僅かな恐怖の香りも嗅ぎ取れなかった。シャツの下にもぐりこんだスパイクの手が、ザンダーの背中を優しく辿った。ただいっしょに眠っていた夜には見るだけだったザンダーの背中のラインを、こんどは手で確かめていく。

いつのまにか二人は激しく求め合って、互いに腰をこすり合せるように揺らしていた。

ザンダーが突然スパイクごとぐいと体を起こしたので、スパイクはいきなり霞のなかから現実世界に引き戻されて驚いた。

「Okay, time out.(オーケイ、時間切れだ)」

「What is it, pet?(どうした?)」

心配そうな声になってスパイクは尋ねた。

「わかった、俺が急ぎすぎたんだな。ちくしょう、悪かった。でもなんでもっと早くノーと言わないんだ」

ザンダーの背中を撫でていた手が止まり、それから引っ込められた。

「どうしたい」

ザンダーはこの勘違いに微笑を誘われた。

「君としたい。そんなの火を見るより明らかじゃない?」

こんなに痛いくらい固くなってるのに。

「ただ君がまだ僕にはっきり答えてくれてないってことに気がついてさ。どうなの、スパイク?僕とセックスしたい?」

自分でもわからなかったけれど、どうしてもザンダーはこのことをはっきりとスパイクの口から聞きたかったのだった。硬くなったスパイク自身が自分のものに当たっているのだから、そんなことは云われなくても判るだろうといわれても仕方ないのだが、ただ彼はいまだ本当には信じられなかったのである。自分が父親に何をされてきたのか、それを知っている人間が、そんな自分を心から求めてくれることがあるのだろうか?だから彼は、その言葉を聞きたかったのだった。

「ザンダー…」

スパイクは手を彼の顔に滑らせた。

「ラヴ。俺にはそれ以外にしたいことなんてねぇよ。けど、お前のほうこそマジなのか?」,

ザンダーはぐっと喜びと欲望がこみ上げてくるのを感じた。じゃあ本当なのだ。スパイクは自分を求めてくれているのだ、自分と同じように!

「ああ、もちろんだよ!本気さ!」

「よし。じゃあ、ベッドに行こう。ここじゃ狭すぎてうまくやれねぇし、今のうち行かなきゃ俺は立てなくなっちまうからな」

さっと空気中に広がった緊張感を感じ取って、スパイクはザンダーの気を和ませようとそんな冗談を云った。うまくやれるうんぬんなどを本当に心配していたのではない。今から自分の恋人になる相手のひいひい爺さんが生まれる前から、自分はセックスなんてしてきたのだ。世界を巡り歩いている間に性愛の技法に長けた連中からもいろいろ学んでいた。

ただ彼は、完璧にしてやりたかったのである。あの外道が少年の頭に植え付けたイメージを、根こそぎ消し去ってやりたかったのだった。

「確かにそれはグッドアイデアだね」

そう言って二人は身を離して起き上がったが───その時揃ってちょっと顔をしかめた。スパイクは手を伸ばしてザンダーの手を優しく取ると、ベッドルームへと導いていった。

緊張がせりあがってくる。心臓がドキドキしはじめる。怖くはなかったけれど、痛くはないだろかと不安だった。それにスパイク。自分は彼を満足させられるだろうか?スパイクにしても、同性とのやり方なんて知っているんだろうか?自分ならどうすれば気持ちいいのか判っているけれど…。

《ああ、もう、考えるな。自分で望んだことじゃないか。OK,大丈夫、大丈夫…》

部屋に入るとスパイクはザンダーを優しく引き寄せ、ゆっくりと、緊張に身を強張らせているザンダーに思いやるようにキスをしてやった。ザンダーが不安に揺れているのは判っている。あの記憶のせいもあるだろうし、それに───自分だって初めてのときはそうだった。ザンダーが男との経験は皆無なのは見れば判る。ヴァンパイアの自分でさえ《しかも初体験はアンジェラスときたもんだが》その時どんな気持ちがしたものか、まだスパイクは覚えていた。不安で、頼りなくて、どうすればいいのか判らない。スパイクはついばむようなキスをザンダーの唇から耳に続けていった。

「怖がらなくていい。ラヴ。これはお前のためだ。全てはお前のためだ。俺のことなんか考えるな。俺のために何もしようとするな。今夜はお前の夜だ。全てはお前のためにあるんだ。」

スパイクは猫のようにゴロゴロ喉を鳴らしそうなのを胸の奥底に押し込んだ。さて自分はこの腕の中の美しい人間に対してどうしてやろう。"more(もっとして)"と懇願するザンダーの声を聞くにはどのやり方がいちばんかな?

彼は柔らかい耳たぶの付け根に唇を押し付けてキスをするとザンダーをベッドに導いていき、そっと自分の隣に引き寄せた。

ザンダーはスパイクの唇の感触に身を震わせた。けれど催眠術のようなスパイクの低い声に、だんだん心が落ち着いていくのを感じる。彼は力を抜いた。スパイクが与える感触にだけ意識を集中していこうとする。それから自分が優しく後ろに押されるのを感じた。ベッドに仰向けにされて、上からはスパイクが自分を見下ろしている。

「心配要らない。かならずいい気持ちにしてやる。お前を喜ばせてやりたいんだ。お前が良かったと思うこと、それだけが俺の望みだ」

スパイクの囁きが耳に吹き込まれ、彼は優しくベッドの上まで引き上げられた。いつのまにやら枕が自分の頭の下にちゃんと現れている。

ザンダーは目を閉じたまま頷いた。唇が半開きになり、自分がうっとりと恍惚とした表情を浮かべているのに気がついていない。

スパイクはザンダーの隣に片身を横たえて唇にまたキスをおとす。手はザンダーの脇腹から胸へ、ゆっくり辿っていく。ためらいがちな手が自分のシャツのすそを引っぱるのを感じて、スパイクはキスをしたままザンダーのシャツを捲り上げていった。日にやけた金色の肌が現れる。ザンダーもお返しとばかりにスパイクのシャツをたぐってくる。しかたねえとスパイクは二人がシャツを脱ぐのに必要最小限度なだけ身を離すと、頭から服を脱ぎ捨てた。そのまま二人ぶんまとめて部屋の向こうに放り投げる。それから供物台に捧げられたご馳走を見るかのように、スパイクは眼下の体をみつめた。ベッドサイドの柔らかな明かりにてらされて、ザンダーの肌はつやめいた光を放つかのようだった。

ザンダーはやっと目を開いた。スパイクの体を見たかったのである。見慣れた白い肌、頑強な筋肉質の胸、ブラック・ジーンズの中に消える細い胸毛のライン。見つめているうちに彼の口はからからに渇いてきた。

二人はそのまま互いの肌に手をさまよわせたまま動かなかった。けれど今度はザンダーのほうが、触れたいという欲望に抗し切れなくなってスパイクの体を自分から引き寄せた。落ちてきたヴァンパイアの体の冷たさをがむしゃらに求めながら、自分の熱いからだとは対照的だと切れた頭の隅で思った

スパイクは唇から喉元へ、それからたっぷり時間を掛けてすでに硬くつんと尖っている乳首へとキスを落としていった。ゆっくり円を描くように右側の硬い突起を舐める。その間もずっと恋人の顔から目を離さなかった。大きく喘いだザンダーは胸を反らして、スパイクの口にもっとというようにそこを押し付けてくる。

「Christ, Spike,」

きれぎれの喘ぎがもれる。

「Please, so good. 」

スパイクはすっかり口に含むと、片手でザンダーの左をそっとまさぐりながら、ゆっくりと乳首に舌を這わせてしゃぶった。掌を平らにして、固く尖った突起を回すように擦って、ザンダーから違う喘ぎを盗む。ゆっくり舌を胸に滑らせて、左側の乳首にも長く淫らなキスをしてやると、悶え声を上げ始めたザンダーが無意識に尻を突き上げるように動かし始める。

スパイクは胸から下の方に唇をずらしていった。彼としてはなるべく長引かせたかったが、ザンダーが頂点に近いことを感じ取ったからである。

それから彼はザンダーのズボンの腰周りまでいってためらった。問答無用に引き剥いでしまいたかったが、本当にやってもいいのか確信が欲しかったのである。しかし彼の心配はすぐに取り越し苦労だとわかった。ザンダーは自分で尻を持ち上げるとジッパーを降ろしたからである。

「手伝ってくんないの?」

にやにやと笑ったスパイクは、ザンダーのズボンの脚の部分を掴むと、一気に下着ごと引き剥いでしまった。裸にされた瞬間、ザンダーの体から羞恥とためらいの香りがぱっとひろがるのを嗅ぎとったスパイクは、すばやく身をかがめると優しくキスをした。ザンダーの体は美しかった。

「Xander, you are so beautiful. So perfect, so pure.」

耳元にそう囁いて、スパイクはザンダーの脇腹に軽く両手を滑らせた。

「I want you so much.(お前が欲しいよ)」

彼はザンダーの体から緊張が和らいでいくのを感じると、その隙にベッドの足元へ身を移した。

「So beautiful(きれいだ)」

ザンダーの脚から上に向かってキスを始めたスパイクの口からその囁きがもれた。

「You taste so good.(本当にきれいだ)」

ゆっくりと。彼はザンダーのふくらはぎからキスをしていった。両足とも、どこにも自分の唇が触れなかったところのないように。

ザンダーはわななく指をシーツに伸ばしてきつく握った。自分に襲い掛かってくる官能の波に対して必死でコントロールをとろうとする。どんな夢想も超える快楽だった。

ここのところスパイクといっしょにいる間、彼の心はほとんど淫蕩な白昼夢で占められていたのだが、しかしこれはどんな性的な夢よりも100万倍もよかった。彼は再び喘いだ。スパイクがその唇を彼の太腿に上げてきて、彼のお腹にぶつかりそうなほど立ち上がっている固いものにじりじりと近づいてくる感覚は───できる限り長い間この感覚に責められていたくて、彼は大きく息を吸って集中しようとした。

スパイクはザンダーの体じゅう隙間なくキスを落としていった。

《So pure, like tasting the sky(すげえ、空を味わってるみてぇだ)》

ザンダーを苦しませているのは判っていたが、だがザンダーの全てを覚えて起きたかった───彼を自分の中に引き込んでしまいたかったのだった。けれどザンダーの鼓動が高まり、急に変わった匂いがザンダーの限界が近いことを知らせる。

ザンダーの開かせた両足の間に身をおき、彼は身を起こしてザンダーのペニスの先端まで口を近づけるとちょっとだけ待った。長くて、まっすぐで、パーフェクトだった。ザンダーのほかの部分と同じように。突起の先端は先走りですでに濡れている。その香りでスパイクの理性は吹き飛びそうだったが、彼は意識を集中させて慎重に手を伸ばすと、指の腹ですんなりと伸びたザンダー自身をそっと愛撫した。ザンダーの顔を見て、全感覚を傾けて少年の体からどんな怯えも感じ取れないことを確かめてから、彼は口を開くと奥まで一気にそれを含んだ。

スパイク…!とザンダーは背を弓なりに反らせながら大きく喘いだ。ほとんどその瞬間、ザンダーは達きかけた。

今までの人生でこんなに良かったことはなかった。アンヤでさえこんなのではなかった。スパイクが自分の睾丸をいじるやり方が巧いのか、それとも自分のペニスのいちばん敏感な場所を舐めるやり方が巧いのか、彼には判らなかった。それとも相手がただ単にスパイクだからなのかもしれなかった。自分自身の命よりも愛しい人が、自分をこんなにも熱情的に愛してくれるせいなのかもしれなかった。

歓喜の大波にもみくちゃにされて、ザンダーはもはや思考能力など消し飛んでいた。ただ感じることができるだけ。信じ難いほどの快楽に、自分でも何を言ってるのかわからない意味をなさないことばがくちびるからぽろぽろと零れる。

スパイクはゆっくり口を動かした。なるべく長くもたせてやりたいが、難しそうだ。

彼は舌を使ってザンダーの固いものを同じリズムで何度も絡めるように舐め上げてやった。快楽の波がぐんと高まっていくのを感じ、ペースを速めてやる。片手で根元を支え、先端のいちばん弱いところに集中して舌を使ってやると、急速にせりあがってくる変化を感じ、ザンダーが長い、荒い息を呑んで自分の名前を叫ぶように呼ぶのを聞いた。

「スパイク、スパイク、やだ、スパイク…!」

それから濃い、青臭い味のするものが喉に注ぎ込まれた。彼は貪欲に最後の一滴まで飲み干した。ザンダーの血と同じ味がする。おいしい。

ぜんぶすっかりなめとってしまってから、彼は身を起こしてザンダーの隣に寝そべった。抱き寄せて、髪に軽いキスを落としてやる。

ザンダーは伸び上がるとスパイクの後頭部を捕まえて、めちゃめちゃなキスを返して寄越した。スパイクの口の中は吐き出す低い悶え声といっしょに自分の味がする。

一つだ。僕らはひとつになったんだ。

それから彼はようやくスパイクがまだジーンズを穿いたままだと気がついた。それに自分にあたるスパイクの固さにも。

素早く手を伸ばしてジーンズのボタンを外し、ジッパーをぐいと引き下げた。ジーンズがタイトすぎて引き降ろすのが難しい。《こんなもん穿いちゃダメだよ、触ってくれといってるようなもんだろ。》

けれどスパイクの手がザンダーの手を捕まえて止めた。

「やめろ、ペット。いいんだ。これは全部お前のためなんだ。俺のことなんか考えるな。」

スパイクが彼の口の中に囁いた。

ザンダーに、自分もやってあげなくては、などと考えてもらいたくなどなかった。ザンダーの満ち足りた、幸せそうな表情を見るだけで、自分は十分満足だったのだ。

《Yeah, そうさ、俺がこいつにこんな顔をさせたんだ》

「君のことを考えたいんだよ。君がほしいんだ、スパイク、お願いだから…」

ザンダーの声は最後のほうで僅かに揺れた。どうやって頼めばいいんだろう?

彼はスパイクが欲しかった。スパイクが自分を満たし、自分に所有の印をつけて、自分を完全に彼のものにしてほしかったのだ。自分の頬が羞恥に赤く染まっていくのを感じたが、心は決まっていた。自分には必要なのだ───そうしたいのだ。

「お願いだから、スパイク、君が欲しいんだ。君を…」

またも彼の声は途中で途切れてしまった。

《Oh, fuck this.(ああ、くそ、)》

「Spike, I want you to feel inside me.(スパイク、君を僕の中に感じたいんだよ)」

スパイクは凝然としてザンダーを見つめ返した。

こんなことは全く予想もしていなかった。彼は長いこと何か奇跡が起こってザンダーとこういう関係になれればいいと夢想はしていたが、しかしたとえそれでも、この最後の一線までは、自分達の関係に含まれることはありえないと思っていたのである。ザンダーがそれを他人に許すほど、誰かにそうして欲しいと望むほど、誰かを信用することはありえないと思っていたのだ。

「ザンダー…,」

声が割れるのは今度はスパイクのほうだった。

「ザンダー、本気で云ってるのか?俺は───」

スパイクはその先を続けられず、ただ自分の恋人を見つめた。

《"俺は、"なんだよ?お前を傷つけたくない───あの外道を思わせるようなことをお前にしたくない。あの怪物がお前にしたのと同じことをお前にやりたくない。あいつのことを思い出させるような真似はどんなことだってしたくない。───そんなことが云えるか? 》

「…俺は。お前を傷つけたくない。お前を傷つけるようなことは、俺にはできない」

スパイクの声は震えた。ザンダーにそうできるなら、死んだって良かった。けれどチップのせいではなく自分がザンダーに所有の証を残せないことの次に、彼にはそんなことはできなかったのだ。ザンダーを傷つけたくない。ザンダーを傷つけるような真似は自分にはできない。

「分かってるよ。チップだろ」

続けようとしたザンダーの唇に冷たい指が押し当てられ、彼は口をつぐんだ。

「違う。チップじゃない。俺がお前を傷つけたくないんだ。俺にはお前を傷つけるようなことはできないんだ。これからもだ。」

青い瞳に光るものがザンダーの心を引き裂く気がした。

「でも、僕がそれを望んでいるんだよ。心からだ。スパイク。僕は君と一つになりたい。君に僕と一つになってもらいたいんだ」

突然ザンダーの顔にその場にそぐわない笑みがひらめいた。

「それに、そうだよ、君は僕の求めることならなんでもすると言ったよね。じゃ、これが僕の望みだ。君が欲しい。君を僕の中に感じたい。本当に心からそう思ってるんだよ。───信じてくれよ。」

ザンダーは切ないほどの祈りをこめて、スパイクの顔を指で縦に辿った。

スパイクはしばらくじっと自分の下で寝乱れた姿を晒している体を眺めおろしていた。 ザンダーは本気だ。

彼に差し出された少年の愛に、スパイクの手は震え始めた。言葉もなく頷き、彼は首を伸ばすとザンダーに優しくキスをした。

「お前がそこまで言うなら、それじゃあ…」

と、とつぜんあることが脳裏に閃いて、スパイクはばっと跳ね起きると、まるで何かに押しつぶされたような獰猛な唸りをあげた。

《こんな時までなんてツイてるんだよ俺はよ…!》

「…うあ…ペット。こう…何と言って説明すべきかわからんが…俺は…その、…あれだ、あるものの用意をしてなくてだな…」

何と言ってこのトピックスを切り出したものだろう?スパイクは頭を抱えたかった。

ところがザンダーは突然にやっと笑うと、片手を伸ばしてベッドサイドテーブルの引出しを開けた。スパイクはザンダーが中を引っ掻き回すのをなんだというように見ていたが、ぽんとベッドの上に投げ出されたものを見てぽかんと口を開ける。潤滑剤だ。

唖然としたままザンダーを見上げれば耳まで裂けそうな顔で笑っている。目はどうだと愉快げに踊っていた。

「…おい。一体いつこんなもの手に入れたんだ」

やっとその質問だけが思いついた。

「先週だよん」

笑いを堪えて失敗している声でザンダーがこたえた。

「そういうこと考えたって無駄かなとは思ったんだけど、でもま、準備しとくにこしたこたないかなってね」

ザンダーはにんまりと笑った。

先週日曜雑貨店に出かけたときのことだ。ミルクとシガレットと、このごろめっきりスパイクが耽溺しているゴディバ製のホワイト・チョコレート・アイスクリームをカートに放り込んでいるときだった。

ヘンな通路に迷い込んで、ぼんやりとスパイクの胸に落ちたアイスクリームを自分が舌で舐め取っている不埒な情景を頭に思い描いていたとき、視界の隅にその箱が飛び込んできたのである。ほとんど衝動買いだったのだが、ともかく彼はそれを籠に放り込んでいた。家に帰ったときにはそれをひとまず隠しておいて、スパイクがその夜外出した隙にナイト・スタンドに忍ばせておいたのである。

「いい勘だ 」

スパイクは笑い返した。それからゆっくりとその笑みが消え、揚がってくる熱い欲望がそれにとって代わる。急に速くなったザンダーの鼓動を聞いた。ザンダーは彼の胸に掌を当てて、そっと撫でおろしながら小さく囁いた。

「じゃあ、というわけで、そいつを正しく使用しようじゃない…?」

「お前は本当に本気、なんだな?」

スパイクは最後にもう一度だけ尋ねた。

ぐいと引き寄せて押したおすと、スパイクのジーンズを一気に引き剥ぐことでザンダーはその質問に答えた。

そして目にしたスパイク自身に息を飲む。 スパイクは完璧だった。それ以外に表現のしようがない。長くて、すんなりしていて、固い。パーフェクトな形。我慢できずにザンダーは手を伸ばすとそのそそり立つものを握った。あっと息を飲む音が聞こえて、スパイクの顔がたまらない喜悦で歪むのを見、ザンダーの顔にいやらしい笑みが浮かぶ。彼は手を動かし始めた。上がってくる荒い吐息を楽しみながら。

ところが一分後、彼は突然体勢をひっくり返されてベッドに仰向けになっていた。スパイクがザンダーの両手を掴んで彼の頭の上に縫いとめていた。

「勃たせとけよ。でなきゃお前の希望にそえなくなっちまうだろ?」

口の中に囁かれた低い声に、ザンダーはただこくこくと頷いた。

スパイクは深く口付けながらチューブに手を伸ばした。もしザンダーが本気なら、そしてザンダーは本気なのだが、それなら自分だってこれ以上我慢するつもりはこれっぱかしもなかった。

彼はジェルをかなりの量搾り出すと、自分の指全体にたっぷりとなじませた。それからザンダーの両膝を立たせて開かせて、ベッドに平らに横たわらせる。

不安と決意の香りを、同じくらい強く感じた。

「お前を傷つけたりしない。約束する。…死ぬほどよくしてやる」

囁き、スパイクは手を下ろしていった。そして燃えるように熱いその場所に指をそっと当てた。

「少しでも嫌だと思ったら、すぐにそう言うんだ。そしたら俺はやめる。───いいな?」

ザンダーは無言で頷いた。そして何かを待ち構えるように目を閉じる。

スパイクはそっと指に力をこめると、ゆっくりと、できる限り時間を掛けて中へ滑り込ませていった。そのきつさと熱さに小さく喘ぎがもれる。完全に中に入ってしまうまで、ほんとうにゆっくりと彼は指を差し込んでいった。それからやさしく中を探り、ついに目的の場所を見つけた。自分の下から突然あがった悲鳴のような叫びを楽しみながら、ザンダーのプロステイト(注:官能のポイント)をやさしく刺激してやる。

「凄い、すごいいい、もう一回やって」

かすかに笑って、スパイクは同じ動作を繰り返した。スパイクの体の下で、ザンダーの背が弓なりにしなる。

「もっと、お願い、もっとして」

慎重に一度引き抜いて、指を二本に足す。こんどはさっきよりもやや速く挿入した。

ザンダーの入り口はすでに柔らかく開かれている。スパイクは少年のプロステイトに必ず触れるようにしながら指の抜き差しを繰り返した。ザンダーのものはとっくに固くたちあがって、腰をスパイクの手に合わせて動かし始めている。

「Please」

みだらにひらいた唇からその言葉が何度も転がり落ちる。ザンダーは目を固く閉じたまま、何かから逃げるかのように頭を左右に振っていた。

「please」

スパイクは指を三本に増やした。入り口はすっかり開いている。だがそれでも彼はほとんど無限とも言うべき努力を傾けて、まだザンダーを施していった。

彼はこのセックスを素晴らしいものにしたかった。ザンダーの魂を彼方まで吹き飛ばしてやりたかった。彼はザンダーに、満たされるとはどういうことなのかを教えてやりたかった。次からも自分と寝たいと思ってもらうために。

もう大丈夫だろうというところまでザンダーを施してやってから、彼は少年の両脚を胸に折るように引き寄せた。そのときにはザンダーの顔を見ていたかったのだ。自分を受け入れるときに愛する者の顔がどんな表情をつくるのかを、ちゃんと見ていたかった。

スパイクは手早く自分にも潤滑剤を塗りつけると、入り口のところに自分自身の先端を押しつけた。手を伸ばし、ザンダーの顔を掌に包みこむように触れる。

「ザンダー、」

囁くように彼は言った。

「Please,俺を見てくれ」

ザンダーは目をひらいた。呼吸が上がっている。

「お前を愛してる」

言うと、スパイクはゆっくりと彼の中に沈みこんでいった。その間目をザンダーの顔から一瞬も離さなかった。

ザンダーは、自分が快楽のあまり死ぬんじゃないかと思った。父親との時はあまりにも猛々しく、痛みに哭き叫ぶのが常だった。なのに、これは、これは…天国だった。

彼はスパイクに答えたかった。その言葉を返したかった。自分も愛してると、スパイクに教えてやりたかった。しかし声も出なかった。

スパイクの目が、ぎりぎりまでゆっくり挿入していくのにあわせて閉じられていった。締め付けてくる熱さと快楽がすべてを凌駕していく。何の抵抗も感じなかった。前もって施していたことで、何の痛みもないはずだ。もっと深く、根元まで深く、全てザンダーに含まれるように、彼はザンダーのなかに入っていった。

根元まで埋めてしまってから、スパイクは目をこじ開け、見下ろした。どこにも痛みを訴えるような痕跡がないか確かめたかった。だが自分を見つめ返すザンダーの顔には、喜び以外何も書かれてはいなかった。

「スパイク、スパイク、愛してる。君を愛してる、何もかも。永遠に。」

この言葉がスパイクを崖っぷちの向こうに押しやった。彼は慎重に、だが深く動いて少年を奥まで突き上げはじめた。片手をザンダーのまた新しく立ち上がったものに絡ませ、いつしか二人はユニゾンで体を動かしていた。急速に限界が近づいてき、スパイクの動きはより速く、より激しくなっていった。ついに声を上げて彼が達すると、一瞬遅れてザンダーも叫びをあげて欲望を解き放った。全身を震わせながらザンダーの最奥に精を放って、それから彼はゆっくりとザンダーの胸の上に身を伏せた。まだ入れていたかったが、ザンダーの負担を思って中からずるりと自分を引き抜き、ぎゅっと恋人を胸に抱きしめる。

《俺のものだ。永遠に、俺のものだ》

荒い息をつきながら、二人はまだ身を震わせながらそうしていた。それからやっとザンダーが身を起こし、伸び上がってキスをした。

「信じられないくらいよかった…」

愛しかった。この感じ、このつながりあうもの。ザンダーはすべてを愛しいと思った。スパイクが自分を愛しているといった瞬間も、スパイクが自分を愛しているのだと知った瞬間も、全てが…スパイクが、哀しいほど愛おしかった。

「ああ。まったくだな」

スパイクは一瞬だけ、ザンダーをがっしりと抱きしめた。夢見ていたのよりもずっとよかった。ずいぶん長いことこの瞬間を夢に思い描いていたものだったが。

「スパイク?」

「なんだ?」

「あいしてる。」

ザンダーは吐息のようにこの言葉を口にした。スパイクは微笑んだ。幸福が波のように押し寄せてきた。

「俺も愛してるよ。さあ、シャワーを浴びに行こうか。俺はずっとお前の背中を洗ってやりたいと思ってたんだぜ」

ザンダーはにやっと笑った。

「OK、僕はずっと君の"前"を洗ってあげたいと思ってたんだよ」

スパイクは笑い返した。信じられないほど幸福だった。ザンダーが俺を愛している。俺を愛しているとザンダーが云った。この俺を、ザンダーが愛してくれているのだ。

《でもって俺はどうしようもなく脳ミソの溶けたホモになりつつあるってわけだ》

立ち上がると、彼はザンダーに手を差し出した。

「さ、来いよ。シャワーを浴びてさっさと寝よう。明日もお前をメロメロに抱いてやるのには少々休憩が要るからな」

ザンダーはスパイクの差し出された手を握り、立ち上がるのを助けてもらいながら笑った。それから時計を見る。2:30だった───朝の。

「スパイク、どうやらもうその"明日"になってるみたいだよ」

「ふむ。そんじゃあぼやぼやしてねぇで始めねえとな」

白痴めいた笑みをそろって浮かべると、二人は手を繋いでバスルームに立っていった。

 

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