部屋を行ったり来たりしていたスパイクは、ぴたりと足を止めると時計を見上げた。100回目。しかし針は15分しか進んでいない。
掃除・洗濯・食器洗いは瞬く間にやりつくし、それから3時間かけて彼は浴室の(再)掃除をし、ビデオを整理し、アルファベット順にCDを並べ替え、さらにそれを各アーティストごとにリリース順にまでリソートして、最後は本棚まで片付けた。そして今は部屋の真中に突っ立って、カウチをどこに置けばもっと部屋の見栄えがもっと良くなるかな、などと考えている自分がいる。
《俺は何をやってるんだ?ホームガイドTVじゃあるまいし、この調子じゃ次はカーテンを縫おうなんて考え始めるぞ》(注:ホームガイドTV=CATVの主婦向け番組で、料理やガーデニングなどのホームメイキング・メソッドを紹介するチャンネル)
仕方なくうろうろしながら煙草を吸ったりしてみるが、無駄だった。時計を見て、また溜息。あと10分。そうしたらザンダーは帰ってくる。
だいたいなんであいつは仕事なんかするんだ、とスパイクは苦々しく思った。とっとと辞めて何も考えず俺といっしょに過ごしてりゃいいのに、わざわざ働くなんてまるで金がないみたいじゃないか。何か要るというのなら、俺がなんでもくれてやるのに。
だが彼の立派な恋人は、この意見に首を横に振るのであった。
「悪いけど、僕はこの仕事が好きなんだ。得意なことをしていて、さらにそれが社会の役に立っているって気がするからね」
さらにザンダーは何か言いかけたスパイクを遮って、
「だから。何も言うなよ。例え今日がその日であろうとも、僕は仕事に行くからね」
というわけで、彼らの記念日に二人きりで過ごす代わりに、ザンダーは仕事なんかに出かけたというわけなのだった。
記念日、といっても、まだ一ヶ月記念である。しかし彼には意義深くも幸福な一ヶ月であった。ザンダーが自分を愛していると告げてくれたあの日から、今日で一ヶ月なのだ。
目を閉じ、あの夜のことを思い出してみる。夢にまで見たその言葉がザンダーの口から漏れるのを聞くたびに、彼は自分の止まった心臓すらきしむのを感じた───ほんのちょっとだが。今、こうしてその言葉がありふれたものになってさえ、やはりその言葉は部屋中に充満して彼の心をふるわせる。
スパイクはキッチンカウンターに戻ってスツールの一つに尻をのせると、テーブルに置いた深緑色のリボンがかかった小箱を見つめた。気に入ってくれればいいんだが。それともこんな高価すぎるものはもらえないといわれるだろうか?
ザンダーはスパイクが彼のために金を使うのをひどく嫌がるのだった。この前も、とある場所に所蔵していた宝石を全部やろうかと言ったらそんなものいらないとバッサリ断られてしまったのだ。それで一体どうしようかと悩んでいたところに、数日前だった。雑貨屋に向かう途中で、車のディーラーショップの前を通りかかった。
少年はその時ちょうど窓の外を眺めていた。
「あ、あれいいな」
スパイクはちらりとその方角を見た。濃緑色のジープ、"グランド・チェロキー"が、カーショップウィンドウの中に展示されている。
「僕の年には分不相応だけどね」
この時スパイクの目がすっと細くなって、口角にかすかな微笑が浮かんだ。これで問題は解決だ。
「お前はもっとゴツイのが好きなんだと思ってたがな。ガンガンオフロードを走るようなのが」
「うーん、まあね。でもチェロキーは値段も高いぶん、ものが本当にいいんだよ。内装も皮だし、オーディオもいいし。キャンプに行ったって蚊も入ってこないようになってるし。しかも造りがしっかりしてるから、多少どこかぶつけてもびくともしないしさ」
ザンダーはちょっと振り返りながら答えた。彼はいつも、ちょうどあんな色のジープを欲しがっていたのである。スパイクはただ肩をすくめ、気が無さそうな相槌をうっただけだった。
「ジープってのは、みんなそういうもんだろ?」
しかし翌日ザンダーが出かけるやいなや、スパイクは飛びつくようにオートディーラーに電話をかけていたのであった。運良く在庫があり、スパイクはそれを即金で買うと、あちこちパーツの変更まで頼んでしまう。すはーと煙を天井に向かって吐き出しながら、彼は思う。金ってのはホントに便利なもんだ。
プレゼントは昨日のうちに到着している。彼はそれを倉庫の脇にかくしておいた。この箱にはそのキーが入っている。
ザンダーは今日はどうするつもりだろう?スパイクは思った。今朝、いつものように互いに抱き合ったまま目が覚めた時、ザンダーは直ぐに伸び上がって自分にキスをすると、
「ハッピー・アニバーサリー」
といった。少し掠れた、幸せそうな声だった。
「ハッピー・アニバーサリー、ペット。気がついてるとは思わなかったな」
起き上がったザンダーは、うーんと伸びをしてから、自分を見上げるスパイクの額に軽くキスをした。
「"気がついて"たんじゃない。ずっと覚えてたら"気がつく"もなにもないだろ」
それから台所で ザンダーは朝食をかき込んだ。そしてシャワーに向かう前に、ふいにくるりと振り返ると怒鳴る。
「そうだ、ディナーの予約とかしないでよ。今日は外に行くからね」
「え?どこへだ?」
《くそ、じゃあレストランの予約を取り消さないと》
「ないしょ。ビックリ・パーティーだよ。ね、背中流してくれない?」
この一言でスパイクは、一体どんな"ビックリ"をザンダーは計画しているんだろう、と考えるのをあっさり放棄してしまった。
さて今は、ザンダーが何を企画中かと考える時間はたっぷりとある。彼の愛しい人(precious)はここ数日、多少ナーバスになっているように見えた。だが理由が判らなかった。たぶんその"ないしょ"のせいだろう。
彼の耳にエレベータの音と、それからザンダーがばたばたと帰ってくる足音が聞こえた。待ちわびた犬のように(情けない!)出迎えに向かった彼は、急に開いたドアにぶつかって壁に叩きつけられた。
「…逢いたかったぜ」
額を抑えつつ、もう二度とそんな目に遭わないようドアの後ろから抜け出ようとしながらスパイクはうめいたが、今度はザンダーによってまたもや壁におしつけられた。だがもちろん抜け出そうとはしない。代わりにザンダーのシャツの背中を握って、きつくきつく抱きしめた。
「僕も逢いたかった!ハッピー・アニバーサリー、スパイク!愛してるよん」
ザンダーはスパイクにうっとりと微笑みかけた。今日はいつもより本当に逢えない時間が辛かった。離れている時はいつも、自分の一部分がどこかにいってしまっているような感じがするのだが、今日は、まあ、大部分がどっかにいってしまったようだった。
しかし彼は一歩あとずさった。今止めなければ、二人とも玄関口でセックスにもつれこむ羽目になってしまう───またもや。それも悪くはないのだが、ザンダーはお楽しみは今夜のために取っておきたかった。
「俺もだ」
スパイクも一歩後ろに下がって静かに答えを返す。
《よし。忘れるな。セックスは禁止。全部あとまわし。まずは計画を果たすんだ、ウィリアム。》
しかし前を歩くザンダーの、汗で貼り付いたシャツを透かして見える筋肉の動きと、そしてぴったりしたジーンズのせいで丸出しになっているヒップラインを見て、
《計画なんぞクソ喰らえ》
手を伸ばしたが、ザンダーはスパイクの手を素早くはたき落とすと身をかわした。
「だめだって、助平ヴァンプ!後だよ。まずは汗を流したい。日が沈むまでまだちょっとあるし、言っただろ、計画があるんだから」
だが"計画"といった瞬間、彼の笑顔はわずかに翳った。今夜、話を切り出せば…スパイクはなんと云うだろう?頭を一振りして、彼は暗いほうに向きがちな思考を押しやった。
「なんか随分綺麗に片付いてるけど、掃除したの?」
「他になにもすることがなかったんだよ。───おい、俺はだんだん軟弱なオカマ野郎になってくみたいだ。お前そのこと判ってんのか?」
スパイクはザンダーの後について寝室に入り、彼が作業着を脱ぐのを見ている。
《おお、絶景かな、絶景かな》
「悪いね。ちょうど天板みたいに暑い室内での仕事が始まったところでさ。シャワーを浴びないととても我慢できないよ」
ちらと目をやれば、スパイクが期待に満ち満ちた表情でこっちを見ている。
《だめ。セックスはだめ。今はだめ。それはあと。集中しろ、理性だ。お前ならできる、ザンダー》
「でもって、ダメだよ。君は一緒に入っちゃダメ」
あがった抗議の唸り声を無視してドアを閉め、さらに鍵までかける。
《よし、ここまでやればあのヴァンプも入ってこないだろ》
ザンダーは急いで水を頭からかぶると、お気に入りの黒いセーターと濃い色のズボンに着替えた。スパイクはこの服を着ている自分がすきなのだ。それゆえこれが自分のお気に入りになったのだが。
どこにも外れたところやそぐわないところがないようにしたかった。スパイクがどんな風な反応を見せるか、彼には本当に予想もつかなかった。だからせめて、それ以外のところは全部、完璧なものにしておきたかったのだ。
スパイクは誘惑を振り払わんと居間に戻っていた。ザンダーはスパイクがカウチの背にもたれて足をブラブラさせているところに入っていく。
「用意はいい?」
「外に行くんだよな、ラヴ?」
スパイクはザンダーを見上げて笑った。まったくいいタイミングだ。
「そ。荷物はもう全部車の中に積んでるよ」
ザンダーはスパイクの手を取ってドアに向かおうとした。が、実際は自分の方がキッチンというあさってのほうへ引きずられていくので驚いた。
「いいや、ザンダー。積んでないと思うぜ」
スパイクはにやにや笑いながら、いったい何事?というような顔をしているザンダーに小箱を手渡した。
「ハッピー・アニバーサリー。開けてみろよ」
「スパイク、一体何を…」
包装を取って蓋を外し、ザンダーはますます「?」という顔でそのキーの束を見下ろした。
「スパイク…あの、これってキーだよね」
「大変よくできました。お利口さんだな」
ザンダーはこのからかいには目をじろりと動かしただけで、箱からキーを取り上げた。だがそこに下がったエンブレムを目にして目を見張る。
「スパイク、これ、ジープのキーじゃないか」
「またもや素晴らしい観察力。なんでオクスフォードに進学しなかったんだ?」
「スパイク、」
彼は声を平静に保とうとしながらスパイクを呆然と見上げた。
「これは一体何のキー…?」
スパイクは目を裏返して天をあおいだ。
「ジープだよ!自分ででそう言ったじゃねえか、阿呆!」
云いながらスパイクは嬉しそうに笑っている。このプレゼントはどうやら大当たりだったらしい。
「スパイク!」
待ちきれない、というような声でザンダーは叫んだ。ついに声に上げて笑い出し、彼はザンダーをドアの外に連れ出した。
「目を閉じろよ、ザンダー」
云われるまま目を閉じて、スパイクに導かれてエレベーターに乗る。外の空気を感じ、少し歩いて、スパイクは立ち止まった。
「OK.さあ開けていいぞ」
目を開き、───そしてザンダーは自分がぽかんと口を開けているのを感じたが、どうしても閉じられなかった。
ジープだ。あの、自分がいいなあとなんとなく言った、あのジープが、目の前に静かに鎮座していた。彼はスパイクの誇らしげな顔を振り返った。
どうだ。気に入ったか?
ザンダーは再びジープに視線を戻した。口を閉じ、また開け、でもまだ言葉が出てこない。頭を振って、それから数歩進んでジープのフードに手を乗せた。
「僕に…」
信じられない。これまで生きてきて、こんなに素晴らしいプレゼントを貰えることがあるなんて、そんなことを夢見たことすらなかった。
「ジープが好きだとか云ったろ。てわけでその走る凶器をお前に。」
スパイクは幸福の絶頂にいた。喜ばれることがこんなに嬉しいとは、思ってもみなかった。
「いや、もう、これは…凄いよ、こんな…ああ、もう」
ザンダーは頭を掻き毟って言葉を切ると、スパイクの肩をわし掴んだ。
「ありがとう」
そう言って浴びせるように口付ける。それでも気持ちを伝えきれないけれど。
「本当に。ありがとう。こんなことしなくていいのにって言うべきなんだろうけど、そんなの時間の無駄だから云わないよ」
実は、二人はこれまで何度もこの問題について議論───というか、喧嘩してきたのだった。
スパイクは最終的には、『結構な額の金がある』といった彼の経済状況についてのコメントは、些か控えめな表現だったと認めた。スパイクは金持ちだった。いや、富豪だった。そしてスパイクには、どうしてそれをそっくりザンダーにくれてやってはけないのか、まったく理解できなかったのだった。
ザンダーは最終的にはスパイクに、自分は君のその邪悪な性格以外の何ものも欲しくはないのだと納得させたが、ザンダーがプレゼントを受け取らないということにスパイクが実はとてもがっかりしているのは判っていた。それもあって、彼はこの高価なプレゼントをつき返すようなまねをするつもりはなかったのである。
「喜んでくれりゃいいのさ。さて、俺たちはどっかに行く予定だとか云ってなかったっけか?」
スパイクはザンダーの喜ぶさまを堪能しながら尋ねた。
ほんとうはザンダーが、こんな高いものは受け取れないとか何とか、またぐずぐず言うのではないかと彼は心配だったのである。この前には、お前を自分の銀行口座の共同名義人にしてやろうと言ったのにザンダーは強硬に反対したのだ。しかし特別な場合には、ザンダーのばかげた"small gifts ONLY(ささやかなプレゼントのみ受容)"という ルールにも例外が生まれるというわけだ。とするならば、口座は今後のために取っておけばいいのである。
「ああ、そうだった。ほんとに、これから行くところにこれならバッチリだよ。ちょっと待ってて。荷物とってくる」
ザンダーは自分の車に走り戻ると後部座席からピクニック用のボックスとトランクから毛布を取り出した。荷物を運びながら車にもたれているスパイクを見る。スパイクの顔にはは誇らしげな表情が浮かんでいた。
ザンダーはドアをアンロックして中に乗り込んだ。新車のきつい皮の匂いがする。
《わあ、すげえや。スパイクのコートの匂いと同じだ。これじゃ抱きしめられてるようなもんだな。いやいやザンダー、気を散らすな。彼氏の裸が目の前にちらついたせいで木に激突しました、なんて警官にはとてもいえないぞ》
二人は早速乗り込んだが、ザンダーは噴かしたエンジンの振動を感じただけで顔中だらしなくやにさがってしまった。それからあちこちみまわして、車内仕様がTVもステレオもナビゲーションシステムもオープンルーフも備えたトップ・ライン・モデルであると知る。サイドウィンドウを見れば、さらに黒いフィルターまで貼ってあった。
「スパイク、君、スクリーンを張ったの?」
これはいい。日中に出かけようと思ったら、スパイクは後部に乗ればいいだけだ。
「ご明察。それくらい暗ければ外出できる。昼間にいきなり逃げなきゃならない羽目になった場合に備えて、いくつかオプションを積んだのさ」
「最高だよ。逃げるのうんぬんじゃなく、昼間に出かけられるってことについてね。これなら二人で旅行にも行けるじゃん?」
彼はずっとスパイクと旅行に行ってみたかったのだった…新婚旅行に、とまでははっきりいえないが。
それから二人はちょっと車を走らせた。ザンダーは新しい彼のおもちゃに何か新しく発見したことがあるたびに、それをいちいち説明しながらいじってみるのだった。スパイクはただ隣に座って、ザンダーの幸せそうなおしゃべりを聞いている。
やがてザンダーは、車を細いオフロードとの分岐点に乗り上げると、そこからずっとバックで曲がりくねった道路を運転していった。だいぶ走ったころにやっと車を止め、きっちりハンドブレーキをひく。
もう月はすっかり昇って、夜空に星がかすかに瞬いていた。
「さ、着いたよ…ま、ほとんど、というべきだけど。後もうちょっと歩かなきゃならないからさ」
ドアを開けて降り立ち、乗る前に思わずそうしたように、ドアフレームをそっとなでる。それから後部座席に手を伸ばしてボックスと毛布を取り上げ、スパイクの手を取ると彼を小道に導いた。
「ペット。危険な場所じゃないんだろうな?」
スパイクはやや心配そうに周囲を見回した。もし自分が狩をするなら、ここは獲物が自分から飛び込んでくるのを寝て待つにはおあつらえ向きの場所だ。
ザンダーはボックスから二本の杭を引き出して見せた。
「それについてはもう考えてあるよ。でも、ここには何度も来たことがあるんだ。それでも一度も何かに襲われたことはなかった。僕がデーモン・マグネット(注:ザンダーには悪魔を引き寄せる性質がある)なのは知ってるだろ?それなのにだよ」
道を下っていくにつれ、川のせせらぎが聞こえてくる。道の行き止まりまで行くと、今度はザンダーは右に曲がって森の中に分け入っていった。
「お前、どこに向かってるのか判ってるんだろうな?」
スパイクは今度ははっきりと心配になって尋ねた。自分は闇でも昼同然に見えるが、普通の人間のザンダーは、この暗さにも関わらず、かなりの急峻を降りていくのだ。
「言っただろ。僕は何度も来たことがあるんだよ」
ザンダーは足元を確かめながらどんどん下っていった。ついに斜面の一番下まで辿り着いたとき、そこにはぽっかりと、小さな空き地が開けていた。
スパイクは思わず目を見開いた。
木々の間を抜けて足を踏み出したその前に、ひろびろとした大きな池が、銀色に輝きながら横たわっていた。小さな滝が、いま自分達が下ってきた斜面の横腹から、白い糸のように月光を反射しながら池にとうとうと落ち込んでいる。向こう岸から流れ出す小川はさらに下流にむかい、水面には大きな苔に覆われた岩々が、黒々とその身を浮き上がらせていた。
そこは美しく、穏やかで、静かな、夜の腕に抱かれたオアシスだった。
「ザンダー…信じられない…こんな場所があったなんて…」
スパイクは誘われるように前に進み出、あまりの静けさと美しさにほとんど畏怖の表情を浮かべながら周囲を見渡し、聞こえないほどの声で呟いた。
「誰も知らないよ。どこにもここに通じる道はないんだ。ずいぶん昔にここを見つけて…夜のハイキングに出かけた時にね。さっき、何年も前からここに来てたっていったのは、気分が落ち込んだ時はここに来ることにしてたからなんだよ」
ザンダーは歩み寄ると背後からそっとスパイクに抱きつき、スパイクの肩にぎゅっと頬を押しつけた。
「ここらへんで自分以外の人影を見たことはない。誰かがここを知っているような痕跡も見たことはない。だからここはずっと僕だけの、秘密の場所のような気がしてたんだ…」
スパイクは小さく頷いた。云われなかった言葉を聞きながら。
二人はめったにザンダーの過去について話すことはなかった。ただザンダーがそれに触れた時以外は。ただザンダーが苦しみを分かち合って欲しいと望む時以外は。
彼の恋人にとっては、それはまだあまりにも辛すぎた。そしてスパイクの方も、ザンダーの両親が少年にしたことを思うだけで今でも燃えるような怒りが膨れ上がるのだった。
二人はそのまま長い間、何も云わず佇んでいた。 やがてザンダーが溜息をひとつついて、スパイクから身を離した。毛布を広げ、ボックスをまん中におき、そこに座る。スパイクもその隣に腰を下ろした。
ザンダーは深呼吸した。
この二週間、ずっとこのことを考えてきた。今はもう心が決まって、ただ一度きりしかないそれを、口に出して云わねばならないだけだった。
「スパイク、数分だけ、何も言わずに僕の言うことを聞いてほしいんだ。これは本当に重要なことだから。」
吸血鬼は頷いた。何かをひどく躊躇っているのは、少年のからだから発散される不安の匂いを嗅ぐまでもなくわかる。肩を抱こうとしたが、ザンダーはそれに抗うように体を向き合せて、スパイクの指と自分の指を絡ませた。そしてそのまま俯いて、じっと繋いだ絡めた二人の手を見下ろした。
「…君に何を上げればいいか、ずっと悩んでいたんだ。僕にはこの心のほかに、上げられるものは多くはないから…でももう、それもあげてしまったし。でもそれだけじゃ足りないって、ずっと思ってたんだ。僕は、君が僕にとってどんなに大切な存在か、ちゃんと証明して見せたいんだよ。───だから、決めたんだ。明日、僕らの新居紹介パーティーを開く。もうみんなに話して、全員、うちに来ることになってるんだ。───"僕"のうちじゃなく、"僕ら"のうちに。」
ザンダーは驚きに強張ったスパイクの顔を見上げた。
「そして、みんなに言うつもりだ。君がいっしょに暮らしてるってこと…君が僕の恋人だってこと、僕らは付き合ってるんだってことを。みんなはただそれを聞くだけだ」
彼はきっぱりと言ったが、その声は僅かに震えていた。もしかすればこのことが、極めてまずい結果に至る可能性があるのが判っていたからだ。
口を開きかけたスパイクを、しかしザンダーは押し止めた。
「判ってる。彼女らが僕を傷つけるようなことを言うんじゃないかと君が心配してくれてるのは。でも…そう、僕だって君を彼女らに侮辱されるのは真っ平だ。僕は彼女らに知ってもらいたいんだ。いや、町じゅうみんなにだって知ってもらいたい。僕は君のもので、君は僕のものなんだってことを。だから───だから、そういうわけで、ハッピー・アニヴァーサリー。」
ザンダーは俯いた。スパイクの反応が怖かった。だが本気だった。もう疲れてしまったのだ。隠しつづけることに、いつも別々にみんなの前に現れて、他人と一緒にいるときは指一本触れないようにしていることに。他人のふりを続けることに。
スパイクはしばらく黙って少年を見下ろしていた。正直、どういっていいか判らなかった。
「ザンダー…その、本気でそう思ってるのか?スレイヤーは…つまり、俺の言いたいのは、あいつは怒り狂うだろうってことなんだ。それに他の連中も、理解できないんじゃないのか。あいつらはお前の友達だろう。俺は俺のせいでお前に友達を無くしてなんてもらいたくなんかねえぜ」
この言葉にザンダーは単純に嬉しくなって、伸び上がるとスパイクにキスをした。
「まずその一。スレイヤーは受け入れる。僕は彼女とエンジェルの関係を受け入れなきゃならなかったんだから───まあ、あんまりうまくできたとは云い難いけど、でも最終的には受け入れたよ。彼女の差し出す料理なら、それに毒が盛ってあったとしても僕は食べるさ。だからもし、彼女が君を殺そうとするなら───そしたら彼女はまず僕を殺してからってことになるだけだ。その二。他の連中がもし受け入れないのなら、そしたら連中はもう、僕の友達じゃない。」
スパイクはキスを返した。心の深いところを掴まれて揺すぶられた気がした。
「判った。明日の夜、だな。───派手なカミングアウト・パーティーってわけだ」
それから彼はにやりと笑った。
「ピンク色のケーキも焼いて出すか?」(注:ピンク色のケーキは新婚家庭を暗示する)
ザンダーはさっそく冗談を飛ばし始めたスパイクをどついた。ほっとした。思ったよりここまではうまく行った。
「しないよ、バカ。お酒を出すんだよ。たぶんその方が役に立つ」
さあ、ここからが一番の難所だ。
「だけど、云っておきたいのはこのことだけじゃないんだ」
彼はおもむろに立ち上がると、言葉に悩みながら、ゆっくりとスパイクの前を行ったり来たりと歩き始めた。
「ね、覚えてるかな…この前の夜、君は何をそんなに考え込んでるんだって、僕に尋ねた」
スパイクは頷いた。どうやら自分の少年は、やっとここのところの懊悩について話すつもりになったらしい。
彼は地面に手をついて立ち上がると、水際に寄って立った。そこならザンダーの表情は見えるが、歩き回るザンダーの邪魔にはならないからだ。
ザンダーは足を止め、夜空を透かすように眉をひそめて星を見上げた。勇気を集めるように。
「そう…僕はずっと考えていたんだ。君がいつも僕に『forever(永遠にお前を愛する)』と言ってくれる、その意味について」
何を言い出すのかと猛然と反論しかける吸血鬼を止めるため、彼は手をスパイクの胸に置いた。
「判ってる、君の気持ちが本当だってことは。そういう意味で云ってるんじゃないんだ」
再び歩き始めたザンダーの足は、さっきよりもせわしくなっていた。彼は何かに祈るように、しばらく両手を鼻の前であわせた。
「そう…僕も君に永遠をいってきた。もちろん僕だって本気だ。」
彼はスパイクに歩み寄ると手を伸ばし、その端正な顔に触れた。
「本気なんだ」
手を下ろすと、彼は再び歩き始めた。
「だけど、どんなにそれが不公平なことかと考えていたんだ。君が永遠と言ったとき、それは本当に永遠を意味する。でも、僕は違う。僕にはそんなことは云えない。いつか…」
ザンダーは涙がこみ上げてくるのを必死でこらえ、大きく息を吸った。
「いつか。僕は死ぬ」
囁くように云った。
「僕は死んで、君を置き去りにする。そして」
彼の喉が詰まり、涙が頬を滑り落ちた。彼は冷たい腕が自分をぐいと抱きよせて、自分の頭をがっしりした肩に押し付けるのを感じた。
「そんなことを云うな。云ったらだめだ。なんでそんなことを考えるんだ」
スパイクの囁く声も、だがザンダーと同じように震えていた。
これこそは、二人の頭上にかかった暗雲であり、ずっと避けていた話題だった。
結局どんなに自分とは別れないと誓っても、実質的にはザンダーは自分を置いて去っていく。
スパイクはだが、この少年をヴァンパイアに変成させるつもりはなかった。たとえそうできたとしてもだ。
ザンダーをヴァンパイアにしてしまったら、自分が愛した少年の、最も本質的な部分を破壊してしまうことになる。だからできない。それだけはできないのだ。
だから───だから、別れは不可避なのだった。できる限り先延ばしにすることはできるかもしれない。だが、ザンダーの鼓動の一拍ごとに、時計の針の進む一秒ごとに、この奇跡は終末に近づいていっているのだった。
スパイクは目を閉じた。その日を思うだけで、彼は心が血の涙を流すのを感じる。
「いいんだ。おまえの気持ちは判ってる。だからいいんだ。お前が永遠といったら、それは永遠なんだ。俺たちの永遠の間には違いなんてねえんだよ」
こんなことは言いたくなかった。自分がもうそのことには気付いていたのだと暴露してしまいたくはなかった。お前の葬式が終わったら、俺はお前の墓の上に横たわって、あとは太陽が昇るのを待つだけなんだなどとは云いたくはなかった。
ザンダーは身を引いた。これは云わねばならないのだ。たった一度きりの願いを込めて、云わねばならないのだ。
「スパイク、聞いて。たしかに君は正しい。もし僕がヴァンパイアにならずに不死の身になれるものならそうしてる。そう思ってずっと色んな方法を探しつづけてきたし、これからもそうするつもりだ。けど、それまでは…。スパイク、僕は君のものになりたいんだ。みんなに知ってもらいたいんだよ、僕は君のものなんだということを。そこにどんな疑いも挟める余地がないようにしてしまいたいんだ」
彼はもう一息ついた。ここが一番の難所だ。
「スパイク。僕は君に所有者の"証印(claim)"をつけてもらいたいんだよ」
スパイクは凍りついた。
「なんだって?」
きっと聞き間違えたにちがいない。もちろん自分はずっとそうしたいと思ってきた。願ってきた。自分の所有物にしてしまえば、確かに他のヴァンパイアはザンダーに手を出せなくなるのだから。(あえて"マスター"のスパイクに戦争を仕掛けるつもりがあるなら別だが。)だが彼にはできなかった。あのくそったれなチップのせいで、彼には人間を噛むということができなくなっていた。"証印"は巡り巡っては結果としてザンダーを守ることになるかもしれないが、それ以前に、噛むという行為そのものが、本質的にはザンダーを傷つけるということを意味するのだ。
「こう云ったんだよ。僕に君の所有の印をつけて、って…」
ザンダーは顔を背けた。声が震えた。
《バカ、泣くんじゃない、ハリス》
「いいんだ。バカなアイデアだよね。云わなきゃよかった」
スパイクはぐいとザンダーの頭を向きなおさせると自分の胸に抱き込んだ。
「馬鹿、誤解だ。この一ヶ月俺がそう思わなかった日はないとは思わないのか。もちろん俺だってそうしてえよ。でもできない。お前を噛んだりはできねぇんだよ。あのクソ野郎どものせいで…」
もうすでに慣れた怒りが身内にこみ上げてくる。
ザンダーの肩から安堵で力が抜けた。ということは、ただ単にチップのせいなのだ、スパイクがそうできないといっているのは。そして、スパイクも、自分を所有したいと思ってくれているんだ。
彼はスパイクの顔を手で覆って自分のほうを向かせると、たちまちスパイクの罵言はやんだ。彼はやさしくスパイクの唇にキスを重ねると、それからちょっと身を引いてスパイクを見た。
「僕もそれについては考えたんだ。で、…そう、君次第なんだけどさ。どれくらいまで苦痛に耐えられるかっていう…」
ザンダーは敷いた毛布の上にスパイクを連れて行くと、ボックスのなかから魔法瓶とジャック・ダニエルを取り出した。瓶を持って、
「この前血液銀行に寄って、手術を受けるから、いざってときのために一パイント手元に用意しておきたいって頼んで、ここに入れてもらったんだ。」
それからもう片方の手にジャック・ダニエルを持ち上げ、
「で、こっちは君を気絶させるため」(注:意識を失うまで酔わせるということ)
呆れたようにスパイクはザンダーを見た。
「薬用血液に気絶用ジャックか。頭のいい奴だ」
ザンダーはにこりと笑った。
「なんての、"まさに時代はオレのもの"って感じ?」
それから彼は笑みを消した。
「真面目にさ、スパイク。君が噛んだらどうなるか、僕にもわからないんだ。でも君を信じてる。愛してる。君が僕を吸い尽くしたりしないってわかってる。君を苦しめるのは本意じゃないけど…でも、君の印が欲しいんだ。全世界に、僕は君のものだって知らしめてやりたいんだよ」
彼は覚えていた。ザンダーに初めてキスしたあの瞬間から、自分はそうしたかったのだ。誰も自分のものに手を触れられないようにしてしまいたかった。そのマークを自分の目で見て、触れて、その傷を舐めて閉ざしてやりたかった。自分の中にあのピュアな、熱と希望の味がするザンダー自身を飲み込んで、自分の体中の血管をそれで満たしたかった。だがそれは自分だけではなかったのだ。
「本気か?それに…もし、そうできなかったら?」
「そしたらまた他の方法を探すまでさ」
心臓がドキドキする。スパイクのことをこれ以上好きになれないと思うたびに、また何かが起こって自分はもっとスパイクが好きになる。
スパイクは自分に印をつけたいと思ってくれてるんだ。自分もそうしてもらいたいと思ってる。僕とどこまでも一つになりたいと思ってくれているんだ。
「ね、ほんのちょっとだけ───噛んでくれない?」
スパイクはザンダーをきつく、体がとけてしまうほどきつく口付けながら抱きしめた。
「ああ、やるさ、何だって、なんだってだ!お前は俺のものだ、ずっと、永遠に、お前は俺のものになるんだ…」
互いの目を見つめあい、それからスパイクはゆっくり身を離すと、ザンダーの手を取って池の傍らに立った。ザンダーの整った顔を月光が斜めに照らした。
「どこにしてもらいたい?」
とつぜん自分の中心を襲った官能の疼きに、ザンダーは目が眩むような気がした。
「…君の好きなところにして」
スパイクはザンダーの首に沿って優しく唇を落としていった。不安と欲望の二つが心に渦巻く。
「そうだな…皆に見えるところにつけたいのは山々だが、聞かれたくないような質問をされるのも困るだろう」
彼は最後にザンダーの首と肩の付け根のところで唇を止めた。ここにしよう。見えるか見えないかのぎりぎりのところだ。
彼は頭をげ、ザンダーの茶色の瞳を見つめた。ザンダーの本気を読み取れる。ザンダーの本当の気持ちを嗅ぎ取れる。
「いいか?」
ザンダーはわずかに頷いた。スパイクが自分の血を吸った時のあのエロティックな感覚、あの官能、あの何ともいえない"親密さ"…欲しいのはそれだけだ。
スパイクは頷き返した。
「ザンダー、…愛してる。」
そう言って、彼はザンダーの首に自分の頭をうずめた。
牙が肌を破ると同時に凄まじい痛みが彼を襲った。殴られたように膝が砕けかけるのを、スパイクの腰に腕を回していたザンダーが固く抱きしめて支える。ナイフで神経を切り裂かれていくような痛みだった。だが彼は必死でそれを無視した。牙を沈めていき、前歯が熱い肌に触れ、温かい血が喉に流れ込んでくるのを感じる。しかし苦痛はもはや、自分の体内で怒り狂った野獣が暴れまわるような激痛に変わっていた。自分の全身がガタガタ震えているのが判ったし、苦痛はもはや痛みというより、身を磨り潰される時に感じるようなショックになっていくのも判ったが、それでも彼は牙を下ろしつづけた。やれるはずだ。いや、やらねばならないのだ。
そしてついに、彼は今では懐かしいものになっている血を飲み下していた。すると不思議なことが起きた。一口飲むごとに、苦悶の波がじりっじりっと引いていくのである。彼はもっと奥へ、もっと深くと、ザンダーのエッセンスを求めて牙を押し込んでいった。
そしてそれが起きたのは突然だった。全ての苦痛が、まるでうそのように消滅したのだ。彼はザンダーしか感じなかった。ザンダーの愛と完全さしか感じなかった。最後に口一杯に含んだとき、彼はザンダーがかすかに喘ぐのを聞いた。ザンダーの固くなったペニスが自分の腿に押し付けられているのも感じる。
ゆっくりと、慎重に彼は頭を上げ、残った傷を綺麗に舐め上げていった。ゆったりと、こするように、肌の上に舌を這わせ、そしてマークを封印する。仕上げに満足して、彼はザンダーの瞳を覗き込んだ。
ザンダーは見つめ返した。スパイクが自分の”中”にいる。それを感じた。自分達は本当に一つになったのだ。自分はスパイクのもので、スパイクは自分のものなのだ。これからもずっと、永遠に。
スパイクの口元に血が付いているのを見て、彼は低くうめくと夢中でスパイクを引き寄せ、狂おしく唇を重ねていた。めくるめくような感覚だった。二人の体の中に自分の血が流れている。自分達は一つの存在なのだ。
衝動に突き動かされるまま地面に倒れこみ、その血を、感覚を、狂ったように味わいながら唇を貪りあっていた二人は、しかしようやく身を離した。
ザンダーはスパイクの髪に指を入れてかいやった。そしてスパイクの平静な様子に奇異の念を抱く。
「なんだか今は平気そうだけど…苦しくはなかったの?お酒も血もいらない?」
スパイクは指でそっと印をたどった。俺のものだ。ザンダーは俺のものだ───永遠に。誰もそのことに異議をさしはさむことなど、これでできなくなったのだ。
「まあ苦しかったが、でも途中で消えちまった。いきなりだ」
ザンダーが目を大きくする。
「ほんと?どういうことだろう」
「わからん」
スパイクはいまだその傷をじっと見つめたまま、どうでもよさそうに応えた。
「もう噛んでも大丈夫なのかもしれないよ?もういっかいやってみなよ」
「そうか?」
希望に満ちた声でスパイクは言った。愛咬なしのセックスなんてほんものじゃない、とはスパイクの持論である。
「いくぜ」
ほら、と傾けたザンダーの首に、頭の一振りでバトルフォームになったスパイクはがぶりと噛み付いた。
「こんちくしょう!!」
電撃のような激痛が彼を貫き走り、スパイクはザンダーの体の上に崩れ落ちた。震えている。
「ああっ、ごめん!ごめん!バカなこと言ったよ!」
ザンダーは半狂乱になってスパイクを仰向かせると、ウィスキーのボトルを引っつかんだ。
「ほらこれを、飲んで!」
スパイクはぜいぜいと喘ぎながら手を伸ばした。痛みはからだ中に反響するみたいに続いている。彼はボトルのシールをむしりとると口一杯に流し込んだ。焼けるようなアルコールが喉を滑り落ちていく。もう一口、それからもう一口、と繰り返すうちに、ようやく痛みは引いていった。
ザンダーは小刻みに震える背中をさすりながら寄り添っていた。なんてバカなことを云ってしまったんだろうと自分で自分を殴りたいほどだったが、しかしさっきああ云った時は、きっと何かが原因であのチップが作動しなくなったのだろうと思ってしまったのだ。とんだ大間違いだったが。
震えが止まってから、やっとスパイクはぼろぼろに疲れた声で一声搾り出した。
「…どうやら、あのくそったれなシロモノは壊れちゃいねぇらしいな」
「みたいだね…」
「さんざんお前のあれは噛んでるのに、セックスなら問題外ってのは一体どういうチップなんだ」
《くそ、歩くこともできねえ…車は坂の上なのに、どうやって戻りゃいい》
「さあね。ったく、でもこんな時にそんなこと考えんなよ」
やや赤面したザンダーは荷物を片付けると、彼の恋人《今はもう兄弟だ》の腰に腕を回した。
「さ、行こう。酔っ払いは家に帰ろうね。」
スパイクは言葉もなく頷くので精一杯だった。頭が重さを支えられずにふらふらする。
ザンダーは慎重に足元を確かめながら坂を登り、ジープにスパイクを担ぎこむと一直線に家に向かった。しかし彼の目は絶えずちらちらバックミラーに注がれていて、首筋のマークを見ては狂人みたいにニヤニヤヘラヘラと笑っていた。
連中はきっと、これを気に入ってくれるに違いない。
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