新城



 新城という男を見て、まず抱く印象は「怒り」である。

 今日も彼は小柄な身体をぴったりとしたスーツに固め、強い眼光を隠しもせずに、虎ノ門病院の廊下を外科部長室へ一直線に向かっていた。
 外科部長室のプレートには、「新城了介」とある。新城管理官の、叔父だった。
「忙しいところを済みません」
 甥の新城は少しも済まなく思っていない口調で切り出した。
「いや。だが手短に頼むよ。分かっているだろうが、非常に忙しいんでね」
 それを受ける叔父も、あまり友好的とは言い難い。
 彼はこの甥が苦手だった。というより、彼は「一流」で親族を固めたような新城家の連中みんなが苦手だった。婿養子の立場ならなおさらだ。

 中でも昔から甥ッ子は生意気だった。が、警察という公権力を振るう立場に立ってから、いっそうその嫌らしさが増したような気がする。第一、人間を相手にしていると言うよりは、精神も心もない機械を相手に喋っているような気にさせられる。つまりは警察という権力の無言の圧力が芬々と臭ってくるのだ。
 その力の前には必死で獲得した大病院の外科部長という権力も色褪せて見え、無意識にも新城了介の自尊心はゆらいだ。なぜ、はるか年下の甥に妙な威圧感を感じねばならないのか、そう思う大人げない自分自身にも不愉快さを感じる。そのせいで、嫌みが口を突いて出た。
   
 だが新城は叔父の口調になんら心を動かされた様子もなく、「では手短にさせていただきます」と、かえって時間が省けると言った風で、さっさと本題に入った。
  

「先ごろ明らかになった事なのですが、室井警視正を盗撮した下劣な写真が、業界でも最低レベルの週刊誌に出ます。阻止する手は当人も打っておりますが、この病院の警備体制について疑問があります。それについて窺いたい」

 新城外科部長はまじまじと、ストレスの高そうな青白い貌を見つめた。
 全くの寝耳に水の話だった。
 しかも、警備体制が云々、といわれても、外科部長がそんなことを関知するわけがない。
 それをこの甥が知らぬはずはないので、不快さに不可解さが付け加わった気分で、それでもお義理でききかえす。
「なんだって?写真を盗察?それに、うちの警備体制だと?」

 しかし、言っているうちになぜか嫌な胸騒ぎがし始めた。

「上半身裸の写真です。もとはビデオカメラで撮られたものですが。撮影角度などから言って、犯人はレントゲン室の更衣室の壁にビデオカメラを設置したものと考えられます」

一瞬何を言われたのか分からず、焦点を失った新城了介の眼はぼんやりとテーブルの上の空中を見つめた。

「・・・何だって?つまり、・・・レントゲン室に、隠しカメラがあった、ということかい?」

「そうなります。こちらの病院ではレントゲンだけでなく患者の裸も撮るようですな」

 甥の言葉は嫌みを通り越して辛辣だった。
 しかし今の新城了介にはその不遜な言葉を咎める立場になかった。

彼の頭に浮かんだのは、来院する患者、すなわち客が、そんな事実を知ればどんな反応をするか、という点であり、それは病院経営上想像もつかない損害をもたらすであろうということだった。
レントゲン室に隠しカメラがあったなどということが表沙汰になれば、病院には女性患者は一人も来なくなるだろう。

「そ、そんな写真が公開されてはうちは大変なことになる。」

 そんな写真がタブロイド週刊誌に載れば、名門の誉れ高い虎ノ門病院の信用は地に堕ちる。地に堕ちるだけではない。病院始まって以来の存亡の危機と言ってもいい。少なくとも、室井を受け入れることを承諾した新城了介の首は間違いなく飛ぶ。

そんなことは全くもって、冗談ではなかった。

新城外科部長は革張りのソファから身を乗り出し、すがるように甥を見た。肘掛けの飾りを無意識に握りしめていた。

甥は混乱する叔父を前に、一片の同情も顕わさないで事務的に言葉を続けた。

「ご心配なく。掲載は阻止されるでしょう。私どもの方も、裁判所に差し止め請求をしています。判事は好意的です」

「ああ、そうですか・・・。そうしてくれているならありがたい。」
 安堵で全身の力が抜けて、ソファに背を持たせかけると、新城了介は天井に向かって大きく息をついた。

「つきましては先ほど申しました件、院内の警備体制について、二度とこのような事の無いよう、手を打っておきたいのですが」

やれ助かった、といつの間にか襲いかかって来ていた危険からうまく逃れられた悦びで、新城外科部長はほとんど上機嫌になりかかっていた。とうぜん、異論などあるはずもない。

「いや、分かった。そういうことなら全面的に捜査に協力させてもらいたい。・・・ただ、盗察というのはどれくらいの罪になるものなのかね? というのは、・・・そのう、当院にとっては、新聞沙汰になるのは・・・非常に困るのだ。そこのところははっきりしておきたい。もちろん被害者のかた・・室井警視正?でしたな、にはきちんと謝罪もなにも出来るだけのことをさせて貰いますが」
   
 犯人逮捕、ということになれば、当然洗いざらい真実が暴露されるわけで、そうなれば室井自身だけでなく病院の管理体制が問題になるのは火を見るより明らかだった。
 警備部とも連絡せねばならないが、今はこの甥になんとか穏便に済ませるよう、頼むしかない。
   
「それは大丈夫です。警視正ご自身が被害届を出さなければ、この事件はなかったことになります。
 ・・・が、言うまでもなく、それとこれとは話が別」
   

 被害届を出さなければ・・・という言葉に、叔父の顔に喜色が浮かび隠しきれない計算が働くのを見て、新城は不快さのあまり唇を歪めるのを止められなかった。それで、思わず釘を刺していた。
 室井は被害届を出すかも知れないが、それは判事の差し止め命令を引き出すための口実で、送検前に取り下げるだろう。しかしそれで結局得をするのは、この杜撰な管理の病院と、室井にプレッシャーをかける事だけを目的にこんな茶番を仕組んだ犯人側なのだ。
 

室井を社会的に抹殺するのが犯人側の思惑ならば、それは室井の救出後も、成功しつつあるように見える。それに対抗できるのは室井の精神にのみ掛かっているから、犯人は室井を精神的に追いつめることで、我々の追及の手が緩むのを待っているのだ。

 

***



 落ち窪んだ眼窩に、濃い憔悴の色が痛ましい彼を見て、らしくもなく新城は、持参した封書を室井に渡すべきかどうか躊躇った。
 事は一刻を争い、室井の意志がなければ阻止する手だてもなく、ならば室井に事実に直面して貰うのは当然のことであり、そこにはなんの躊躇すべきことなどあるはずがなかった。だが、やはり新城は躊躇った。
「お体の具合は」
 ぼそりと、室井の目を見ないようにしながら新城は問うた。
 聞かれた男のほうは、救出以来はじめて気遣うような言葉を言われたのが意外で、淡く笑ったようだった。
「かなり、ましだ。」
 新城は横たわる男に気付かれないように、身震いした。
 かつて鞭のように鋭く、剣のように強かった彼の声は、ガサガサに掠れ、よく聞き耳を立てていないと病院の雑音にすら紛れてしまうほど小さかった。
 一瞬、このまま帰ってしまおうか、と新城は思った。自分に出来る限りの強権を発動して、判事から出版差し止め命令をもぎ取ることはできないか?
 それは何度も考えた事だった。そしてその度に、そうすることで騒ぎが大きくなり、この件に関わる人間が増え、自動的に写真も人目にまわり・・・結局はどこの誰から同じ様な出来事が再び起こるとは限らない。公刊なら差し止めも可能だが、個人で回される分には裁判所の差し止めも効かない。あの写真が警察庁・検察庁だけでなく、他官庁、室井の近辺、そして怖ろしいのはインターネットに上げられるようになったら・・・。回復不能の打撃を受けるのは、いまだ目星のつかない犯人ではなく、室井だ。

 犯人はそこまで考えている。そう思うと、新城はこみあげるものを奥歯をきつく噛み締めることで押さえこみ、持っていたものを乱暴な仕草で突きだした。こんなものはそれ程重大な物ではないのだと、そう云わんばかりに。

 さしだれた官庁名入りの封書を、室井はいぶかしげに受け取った。
「…ご覧下さい」
 見せるべきかどうか悩んだのだが、という言葉を呑み込んで、新城は突き放すような言い方をした。私はそんな言い方しかできない。

 写真週刊誌の記事原本を半分ほど封筒から出し、室井は目を見開いた。
 そしてすっと息をつめ、瞳をぐっと閉ざしたのと、写真をそのまま封筒に突っ込み、触るのも苦痛だとばかりに新城に突き返すのは同時であった。受け取られるのを確認せずに手を放したため、封書はぱさり、と軽い音を立てて床に落ちた。
 新城はそれを黙って見下ろした。
 黄色っぽいA4版の封筒の表には、3p格で印刷された「ピーポくん」が手を振っていた。
 新城は、以前からこの警視庁のふざけた絵柄のマスコットが嫌いだった。
 が、今はその意味不明の動物の浮かべる無意味に明るい笑みを、真っ黒にぬりつぶしてやりたい気持ちに駆られた。
 拾いたくもねえ。そう思った。
 だが新城は黙ってゆっくりと身を屈め、ぴかぴか光る黒い革靴でそれを思い切り踏みにじる代わりに、骨張った指で音のしないように拾い上げた。
 身を起こすとき、窓ガラスを通り抜けた冬のぬるい日差しが、空気中の埃をおだやかに浮かび上がらせているのが見えた。
    
 この病室は寒くもなく、熱くもない。
 乾き過ぎてもいないし、湿っぽくもない。
 廊下を通るナースや患者達の声や気配すら、うるさすぎも、静か過ぎもしない。
 全てが適度で、調節され、ある範疇に収められており、なだらかだった。
    
それは、悪意・欲望・殺意が渦巻く自分たちの属している世界からは、あまりにも遠く隔たった、配慮と善意に満ちた異空間であった。
   
(熱すぎたり、冷たすぎたりする自分たちには、かえって居心地が悪いな・・・。)
   
七階の窓に切り取られた、青い絵の具を流したような空を見ながら、新城はぼんやりと思った。
      
「・・・よく・・・わ・・った」
 ふいに、室井の打撲の引き始めた紫の唇から、百才の老人のように嗄れた声が、病室の空気を震わせた。

室井の両親には、この聞き難い悪声は、ほとんど三日間ビニールテープで首を絞められていたことと、精神的なショックによる後遺症だと、医者は説明した。

それもある。

だが、本当は喉が潰れたのだ。だれにも聞かれなかった声で叫びすぎて。
その事実は、室井の両親には注意深く伏せられた。

喉が潰れるまで叫ぶというのは、どんな事なのだろうか?

新城は何度もその疑問の前に立ち止まった。
その結果を全身に晒した目の前の男は、目に痛いほど白いシーツに枯れ木のような身体をくるめて、横たわっている。

やけに静かで、全ての中身を放出してしまったかのように、存在が希薄だった。
かつてのこの男を知る者には信じがたい、“儚さ”という言葉が浮かぶ。

「・・・れ、で・・・?」

かつて彼の短いセンテンスを補うのに有効な手段であった、あの感情を映しだす大きな黒い瞳も、いまはぶ厚い緞帳を下ろしたようだ。

それでも新城は、室井が知りたいであろうことが何だかわかっていた。土気色の室井の貌を注視しないようにしながら、機械的に手持ちの情報を明かす。

盗察したのはK社のフリーライター、M・・・と言う。
この男は、先日、自宅に知らない男から匿名電話がかかってきて、室井警視正誘拐事件のあらましと、この病院の名前を一方的に告げて切れた、と言っていること。今NTTで通話記録を調べているから、いずれどこから掛けたのか明らかになるが、ただ、携帯電話の可能性が高いので、犯人の手掛かりとしては、望み薄なこと。

また、超小型のビデオカメラは、おとつい病人の振りをしてこの病院に訪れたとき、レントゲン室付属の更衣室に設置したものであること。

「あそこには一つしか更衣室はありませんからね。目の付け所はなかなか良かったといえるでしょう。 取り外したのは昨日の夕方。外来がひける頃を見計らって、白衣で医者の振りをして潜り込んだんです。ただ、さすがにこの病室までは撮影できなかったらしい。警備の警官を24時間置いておいたのは正解だったと言えます。もっとも・・・」

(裸を撮影されては、病室で仰臥している写真など何ほどのものでもないが)

と言いかけて、新城は言葉をちょっと切ると、次の話題へ変えた。
さすがに室井の心中を考慮したからだ。

「・・・犯人が、このフリーライターにだけ電話をしたとは思えない。K社以外にも、U社やB社などもある。それ以外にも、この手のゴシップ記事専門の記者に電話がいっている可能性が高い。今、そっちにも当たっているところです。警備警官はあなたの退院まで外さないことになりましたから、今後はこの様なことは起こらないでしょう。」

警備には、トイレの中までついて行け、と命令してある。

新城の口調に何か感じたのか、室井の唇が微かに動いた。笑みのようなもの、出来損ないの微笑は、口角の裂傷によっていっそう凄惨さを加えられた。

「・・で・・わた・は・・・なに、を・・?」

「被害届を出して下さい。後追いですが、捜査に一班使っています。上に報告するのに理由が要る。」

警視正誘拐事件の捜査は、当初から上は消極的だった。それは今でも変わらない。誘拐犯を取り逃がしたのだから捜査を続行するのは当然なのに、「室井君が生きて救出されたんだからよかったじゃないか」と信じがたいことに、早速捜査班の縮小を命ぜられていた。

室井は一瞬だけ唇のはしをひきつらせたが、それが皮肉を示す微笑なのか、それとも組織に裏切られた男の苦痛の表情なのかは、新城にはわからなかった。

室井は投げ出されていた右腕を持ち上げ、石膏で固められた右手を眺めた。

「だすのはかまわな・・が、だ・・かに、か・・てもらわな・・と・・」
室井の右手は親指と小指を除いて肘から指先まで石膏で固められており、書類など書ける状態ではない。
が、左手は人差し指と中指の骨折だけで、手首は自由に動く。

「それはこちらで用意します。左手でのサインと印鑑を頂くだけで結構です」
 室井はぱたりと手を胸に置くと、わかった、と頷いて目を閉じた。

「それ、から・・?」
「今後のことは、あなたの望まれるようにおやりになればいい。」

その言葉に、室井の目が開いた。げっそりと痩けた貌のなかで、瞳ばかりが異様に光っていた。

「・・・しゅっぱんの・・・さしとめ、は・・・まにあう、か・・・?」
「ギリギリです。明日には印刷機が回る。今日中に裁判所の仮処分が要ります。」

室井は目を閉じ、左手で唇をゆっくりなぞった。眉間には例の皺がくっきりと刻まれた。

 新城はそれをいささかの感動を持って眺めた。
 結局、この人は警官なのだ。ふいにそう思う。

「・・・きみ・・・」
 室井が扉のところに立つ警官に呼びかけた。突然、視線を向けられた彼はとっさに敬礼し、はい、と答える。

「すま、な・・が・・・わたしの、親、をよんで、くれな・・・か・・・たぶん、っかいの、ば・・てん、に・・る。はな・・がある、と・・って・・・・」

「い」の発音が出来なくなったせいで、非常に聞き取りにくい室井の言葉を、全身を耳にして聞き取ろうとしていた立ち番の警官は、室井が全部言い終わらないうちに意図を察してその言葉を遮ると、

「了解しました!」
 と敬礼を残して駆けだしていった。

ふ・・・と溜息をついて枕に頭を戻した室井は、それから首をめぐらして新城を疲れた目で見上げた。

「べんごし、のちじんは・・おお・・・・が・・・」
今夜中に出版差し止め請求を出させるためには、相当の運動が必要かもしれない。そんなことを今日これからやってくれる友人など、そうそう居るものではない。
 室井のそんな気持ちを忖度した新城は、自分でも思ってもいなかった言葉を口に出していた。

「乗りかかった舟です。それぐらい私がやりましょう」
 室井がやや驚いたように瞠目する。

「・・み・・が・・?」
「もちろん、このことは重大な貸しとして付けておきます」

いつもの嫌味のつもりだった。いや、それは常に、励ましの裏返しだったのだが。

室井は白っぽい貌を天井へもどし、瞑目した。
いつ返せるか。

殴打痕の張り付いた、荒れた唇がそう動いた。

わからん・・・・。

新城が、初めて聞いた室井の弱音だった。  

 

***

 新城は何故このことで自分がこんなに腹が立つのかは分からなかった。
 自分は被害者に同情するタイプではないはずだ。

「わかっている。警視正には病院として重々お詫びさせていただくし、今後二度とこのようなことのないようにする。」
新城外科部長はややばつの悪いような顔をし、背筋を伸ばした。

「それについて、こちらとしても警備部に協力したいことがあります。ですので、そのように理事会にはかって頂き、できればこちらの警備担当者をそちらの会議に参加させて貰いたいと思っています。それから・・・かつてこちらではこのような事件はありましたか。これは私人として聞いているので、あくまで今後の参考にという事ですが」
「いや、そんな事件はないよ。あったら、もう少し警備に注意を払っていただろう」

「そうですか?」
 唇をゆがめるように聞き返してくる男の額に、青筋が浮いて見えた。

お前の嘘は全て見抜いているのだぞ、というような無言の脅迫を感じ、外科部長は目線を彷徨わせた。

外部が介入してくればありえる事態とはいえ、甥の強制ともつかぬ依頼に室井警視正という曰くありげな人物を預かったのは、いまさらながらに自分の判断ミスなのかもしれなかった。しかし断ったら断ったで、その後に起きる様々な軋轢を考えると、やはり自分にはこの選択しかなかったのも事実である。

とまれ、一応は恩を売っているし身内でもあるのだから、甥も全てを暴露するつもりはないだろう。第一、甥の仕事は特殊捜査と聞いている。病院内部の汚濁になど本来興味はないはずだった。

「まあ、それは・・・。職員も多い病院だし。以前はなにかそういう事件もあったかも知れないが、事実としてどうこうというのまでは私はしらない。本当だ。それに、あったらすぐに首にしている。」

「では今までに解職した人物のリストを」
 冷然と命令する甥に、外科部長は唖然とした。

「そんなことまでするのか?」
 今までに何人首になったかなど、この自分が覚えているはずがない。

「叔父さんには事の重大さがおわかりになっていらっしゃらない。警備部長にお話ししたら、真っ青になってましたよ」
 能面のままの甥が暗黙の強請をすると、叔父は唇を歪め肩をすくめた。

「ふん、なんだ、もうあっちには話を通してあるのか。そんならまあ、いいんだろう。多分事務局にあるんだろうから、事務局長の所へ行きたまえ。話は通しておこう」
 なんにせよ自分には関係のない昔のことだし、そんな人間のリストなど、探すのが大変なのは自分でなく事務局なので、彼はあっさりと捜査協力を約束した。

そんな内心を知り抜いている新城は、
「ご協力感謝します」
にこりともせずに言うと、こんな所からは一刻も早く出ていこうとするかのようにさっと立ち上がった。

「・・・それにしても、何で私の所に?直接事務局へ行けば済むことだろうに」
 なめした革ような顔つきの甥に尋ねる。

「・・久しぶりにきちんとした挨拶をしておこうと思っただけです。叔母さんにもしばらくお目にかかっておりませんからね。どうか宜しくお伝えください」

新城外科部長は気の合わない妻の貌を思い出さされて、あいまいに頷いた。もう半月ほど会話がない。
いや、もしかしたらきちんとした会話なぞ、何10年も交わしていないのかもしれなかった。                                    

                                                1999/10/14

 ***

「外科部長は白のようだ。理事長・内科部長・事務局長を叩いても何も出ないなら、企業脅迫のほうは脈無し。やはり室井さん個人を狙った線が濃い。だが一応警備部長のほうからリストもらってきてくれ。それから班分けして鑑。人数足りなきゃ応援を頼むが、成る可く現行の人数でやりたい。そのつもりで」

廊下で待っていた捜査員はかすかに頷くと階段を駆け下りていく。

それを見送った後、新城はため息を、奥歯を噛み締めることでこらえた

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19991213

この世界では盗撮は親告罪にしておきます。                             

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