Rebuilding the World 3 -I want...-


ツー、という電話の不接続音は、違う音声のリフレインになって彼には聞こえた。 『もう行くの、やめようと思うんです』

───来ナイ。 来ナイ…青島ハ、モウ来ナイ…

ある一つの真理を「悟る」のに、時間はぷつりと電話の切られた、そのコンマ零秒でたくさんらしい。室井が「悟った」のは、まさにこの瞬間だった。青島からの電話が初めて自分が受話器を置く前に一方的に切られた、その瞬間だった。

この一秒より短い永遠の時は、神から与えられた最後の休暇だったのかもしれなかった。次の瞬間───美しい原爆が落ちたようだった。どう例えればいいか判らないからそう表現する。目の眩む光が意識野を静かに照射した直後、聞こえない轟音と共に、偏執的な意識が構築していた分厚い黒壁を、木っ端微塵に吹き飛ばした。どっと、外界が───青空が───暖かい黄色い燐光が、あの時以来死んだ彼の精神の砂漠の上になだれこんできた。鳴動する感情の渦の中で、彼はまるで爆風に吹き上げられた赤ん坊みたいにきりもみし、回転し、落下し、また跳ね上げられ、もみくちゃになり、そして───世界が光に満ちるのを見た。

光。希望。幸福。生命。自由。

絶望と、怒りと、もう自分はゼロなのだ、という感覚はまだ彼の中にあった。だが彼はこのときに悟った。この世にはまだ、光があるのだということ───いや、実は、自分の中に光があったのだ、ということを。何かとてもとても貴重なものが「甦った」。それは彼の人生のルネッサンスだった。新生だった。再生だった。

彼は熱を感じた。幸福を感じた。自分が生きているということを感じた。自分の指先まで血が通っていることを、彼はあの時いらい初めて嫌悪感を全く抱かずに受け入れた。全てのものに感謝したい熱烈な衝動を感じた。この瞬間、彼は全世界を愛した。彼は泣いた。

 

しかし順を追って説明しなければわからないだろう───もっとも、青島にその後何度「順を追って」説明しても、彼はその「理由」を理解しかねたようだったが。


青島からの電話が切れたとき、彼はまるで電話なんてはじめて見た未開人のように、その機械を見下ろしていた。彼が彫像みたいに固まっていたのはわずか一瞬だったが、最初にまず頭に岩が降ってきたように理解したのは、『おれは捨てられたのだ』というものだった。捨てられた───青島に。

その次の瞬間だった。彼は自分が『行かないでくれ』と心の底から青島に向かって叫んだことを知った。『行かないでくれ、自分を捨てないでくれ、頼むから!』と。

下ろそうとした受話器はおかしいくらいにマシーンの台のうえを滑った。手だけでなく全身ががくがく震えていた。彼はそのまま拳を口に押し当て、関節を噛んだ。うめいた。

ぽたりと滴がワイシャツの胸元に落ち、10円玉くらいの染みになった。しかし続いて2滴、3滴、と落ちるにつれて、それはにわか雨が降ってきた乾いた夏のコンクリみたいに形をなくしていった。

もし母の明子がこの様子を見ていたら、彼女はついに自分の息子が狂ったのだと思ったのかもしれない。というのも、彼はうめきながら笑い始めたからである。

もし喉があんなに熱い溶岩を飲んだみたいにつっかえていなかったら、彼は爆笑していただろう。世界は───信じられないくらい輝いていた。実際は薄暗い自分の部屋で、椅子に呆然と座り、ライトの消えた電話を泣きながら眺めていたようにしか他人には見えまい。だがその瞬間、彼は鳥のように、太陽を反射する海と空と大地を、名状し難い恍惚の感情とともに眺め下ろしている自分を感じていた。あの時以来彼に執り付いてはなれなかった全ての苦痛を忘れて。

彼は渾身から望んだ。青島に行って欲しくない、と。渾身から、全身全霊を篭めて───それこそが、彼を光の中に向かって突き飛ばしたものだった。

I WANT you back. I do WANT you not to leave me.─── I・WANT…

人は、たとえば銃殺される直前の政治犯が、最後に子供に逢いたいと願う時のような強さで、「心から」何かを望むということはめったにしない。だが今、彼は、その強さで、深く暗い穴の淵から、光に向かって、青島に向かって、『行かないでくれ』と叫んだのだった。

室井が最後に「心から」叫んだのは、あの時だった。あの犯人達に対して、いや、彼がそのときまではなんとなく信じていた「神」や「正義」なるものに対して、「やめてくれ」「助けてくれ」「そんなことはしないでくれ」と、叫んだ時だった。

だが祈りは届かなかった。いや、無視された。代わりに与えられた、汚い肉と、激痛と、魂を切り裂く憎悪の汚濁の泥沼で、彼はそれ以来、内臓まで汚辱を詰め込まれながら、世界を憎み、人間を信じず、「神」を踏みにじって生きてきた。何も望まず。何も期待せず。何も欲せず。

だって、どうせ返って来るのが汚物なら、一体だれが何を人生に期待する?だから彼は何も欲しいとは思わなかった。いや…唯一、早くこのクソまみれの人生が終わってしまえばいい、とだけは、うっすらと、望んでいた。だがそれも、うっすらとしたものだった。

怒りを感じる時だけ、彼は望んだ。あいつらの死を。これ以上ないほどの残虐な罰を。拷問を。やつらを恐怖のどん底に叩き落して、顔面をぐちゃぐちゃになるまで靴の踵で蹴りつけて、ざまをみろ!と唾を吐き捨ててやりたかった。憎いもの全てを殺してやりたかった。

彼の「望み」とはそういう種類のものだった。その望みは世界のどんな美しいものとも無縁だった。なぜなら彼はそんな美しいものの存在など、もう信じてはいなかったから。

だが。

思わず顔を両手にうずめ、それからびっくりしたように水滴で濡れた自分の両手を見つめた。涙だ。泣いているなんて?しかもそれは苦悶のせいではなかった。

彼は目を瞬いた。睫から面白いように水滴が跳ねた。金色のあたたかい雨に静かにうたれているように、彼の心は、ほのぼのとした、穏やかな浄福さに───事件以来はじめて感じる、やわらかな平和に───満たされていた。

おもむろに、彼は台所で一週間分の料理の下ごしらえをしている母親のことを思い出した。彼は飛び立つように椅子から跳ね上がると母に何かを喚きにいこうとし(多分、実行に移していたとしても、自分は凄く幸せだとか、全てのことをありがとうとか、そんな言葉しかいえなかっただろうが)、ところがぴたりと立ち止まって戻ってくると、今度は青い顔色になって受話器をふたたびじっと見つめた。

今度は彼の目にようやく悲しみと苦痛の涙がこみ上げてきた。たった今青島に捨てられたのだ、ということを思い出して、彼はまたもや絶望に落ち込みそうになったのだった。だが───彼はしがみついた。一瞬前に見出した幸福から、彼は絶対に、二度と、手を離すつもりはなかった。自分は何かをしなければならない───青島を取り戻すために。

取り戻す!

その考えはまたもや彼を有頂天にし、彼はさっきと変って今度はまた熱い幸福の涙を流した。自分が何かを取り戻したいと思っているなんて?

そして彼は頭の中で云うべきいろんな言葉を考えた。謝罪の言葉を、それから感謝の言葉を───感謝?感謝じゃない。

彼は何か云いたそうに口をあけ、首を捻り、目じりを指で拭って、やや冷静になった。感謝じゃない。この気持ちは感謝じゃない。ありがとうを100まんべん云ったっておいつかない。そしたらこの気持ちは感謝以上のものだ。

信頼?───けっこう近いかもしれない。

愛?───かなり近い。けれどこれまでこんな愛情を誰にも感じたことはないから、だからこれは「愛」じゃないかもしれない。

幸福───そうかもしれない。たとえ青島から愛が返ってこなくても、気持ちの悪いことを言わないでくれとかの冷たい言葉が返ってきても、自分はやっぱりお前のお陰で幸福だといえる自信があった。

それで───何というべきだろう? 

混乱する頭の中で彼はなんとかそれだけは考えた。最大級の感謝と、愛と、自分がとても幸福なんだということは伝えたいと思った。そして「行かないでくれ」「許して欲しい」といいたかった。

───「欲しい」だって!!「云いたい」だって!!

彼はほとんど気絶しそうなほどの幸福の波にまた襲われた。

私は何かを「欲しい」と思っている───ふたたび!

この自覚はほとんど奇跡だった。それは世界が戻ってきたということだった。何かを「欲しい」と思うこと、生きてい「たい」と思うこと、誰かに何かを伝え「たい」と思うこと、誰かを取り戻し「たい」と願うこと───それが生きるということだった。自分は生きている。しかも、幸福に!

もちろん、この幸福は一点の曇りもない、というようなものではなかった。幸福の絶頂にありながらも、彼は光の軍勢に反撃された闇の軍隊が自分の内部に反転し、一点に集結し、ビッグ・バン寸前の宇宙のように、より一層黒々と凝結しているのを知っていた。だが彼は自分の精神がその暗黒の淵を探ろうとする直前、ぴしゃりとその意識を叩き切った。今は。今は考えたくはない。

圧倒的な光と熱にも浸食されずに残った永久凍土のように冷えた意識が、どうせまた戻ってくるさ、と囁くのを聞いた。だが彼は振り払った。どうせ戻るとしても、今のこの幸福をなるべく長引かせたい。それに───彼はほとんど狂人のように笑った───あの暗黒は、自分を以前と同じ力で屈服させることはないのだ。

無論、また別の暗黒が(たぶん一般の人が「悩み」とか称するような、かわいらしい薄暗がりが)自分の上にも影を投げることがあるだろう。例えば、仕事の悩みとか(彼は事件以降に仕事で悩みを抱いたことなどなかった)、体調が悪いとか(彼の体調は悪いのが当たり前だった)、誰かと口論になって気分が悪いとか(彼は誰とも口論さえしなかった)…ともかくそんな、ありきたりの、普通の、日常の不幸───おお、そんな「不幸」なら大歓迎だ。

彼は大急ぎで電話を取り上げた。青島に行かないでくれと云わなければ。

だが彼は、たとえ青島が永遠に去ってしまっても、それは恐らくとても哀しいだろうが、しかし自分はその悲しみすらも愛するだろうと思った。青島が去ってしまって哀しいと、そう思える自分になれたことが、本当に嬉しかった。何かを失うことを恐れる自分がいることが嬉しかった。そうだ、自分はこんなにも長い間、自分は何もかも失ってしまったと、何ももう持ってはいないのだと、そう思ってきたのに───ついさっきまで!

だが、今は違う。自分には失いたくないものがある。貴重なものが、美しいものが、愛すべきものが───「愛する」?

彼はその考えにほとんど戦慄した。愛する───自分が、何かをふたたび愛することができるなんて!

彼は青島の別れの言葉をほお擦りせんばかりにいとおしんだ。彼には本当に嬉しかったのだ。だから───実は、青島が本当に去ってしまうかどうかは二次的な問題だった。去ってしまってもいい。自分は哀しむ。でも構わない。その哀しみを私は心から愛する。怨むかもしれない。構わない。その恨みすら、私は愛する。怒るかもしれない…この考えに、は室井は思わず失笑した。怒る?自分が青島に?ありえない!

けれどたとえそんなことがあったとしても、自分はその怒りを愛する。あの底のない暗黒の虚無の中で、麻痺したゴムみたいな心臓をかかえて絶望と苦痛に呻吟しているくらいなら、青島を失ったことでの怒りや悲しみを感じているほうがよほどマシだった。天国だった。いや、天国とはいえなくとも、そこは少なくとも「地上」だった。

彼は電話をがしゃがしゃと音を立てながら取り上げた。番号をプッシュしようとし、今度は驚愕した。青島の電話番号を、自分は知らない。

唖然とした。青島はあの事件以来、自分の実家にまで来てくれた男だ。別荘にだって、確か数回は一緒に行った。東京のこの家には、もう何度になるのか見当もつかないくらいに来てくれて、泊り込んでくれている。とても近しい友人だ。

(…友人?そこまでしてくれる「友人」なんているのか?いやでも青島は家族ではないし、友人というしかないよな…)

さっきの電話の時点で、自分は彼にはもう呆れられたのだと判っていた。事件以降の自分の状態や態度をざっと思い返してみても、彼がもう自分の陰気さにうんざりしているのだと言うことは簡単に想像がついた。自分だって自分を捨てたかったのだ。他人の彼が自分を捨てるのは最も道理なことだ。いや、もっともっと早くに、なぜ彼が自分を捨てなかったのか、そっちの方がよほど不思議だ。

なのに、あんなにしてくれた青島の、自分は電話番号も知らないとは?

彼はまた立ち上がった。今度は母親に青島のナンバーを教えてもらおうと思ったからだった。彼女なら知っているに違いない。きっといつも持ち歩いている手帳のアドレス欄に、彼の名前と番号が載っているはずだ。

ところがノブに手をのばし、かわりに彼はその手で自分の顔をなでた。鏡がないからどんなになっているのか判らないが、少なくとも人を安心させるような顔つきではないだろう。無用の心配をかけたくない。同時に、一体何をどう母親に言えばいいのか、という気恥ずかしさも生まれた。どうしたの、と聞かれて、適当なごまかしを作り上げられるほどの余裕は今はない。

しかし突然キッチンに走りこんでいって、『母さん、青島の電話番号を教えてくれ!俺は彼に愛と感謝と謝罪の言葉を伝えなくっちゃならないんだ!』などとはいえるはずもない…その言葉に全くの嘘も偽りもないにしても。

車で直接会いに行くのはどうだろうか。

これはいいアイデアに思えた。台所の横をすり抜けざまに、一言、『ちょっと出かけてくる』とだけ云うくらいなら、顔を見られずに済むかもしれない。様子が変だとも思われずにすむ可能性もある。

しかし───彼はまたもや気がついて、思わず床を蹴りつけていた。自分は青島の住所も知らない。どうしてこんな自分と青島はコンタクトを取っていられたのだろう?答えは明白だった。いつだって青島のほうからだったのだ。いつだって、自分は座って待っていただけ、ただ彼が一週間黙って通って帰っていくのを、ぼんやりと横目で眺めていただけなのだ。

俺は自分から電話をかけたことがない。自分から彼の家に行ったこともない。あまつさえ───聞いたこともない。どこに住んでいるんだ、とか、電話番号を教えてくれ、とか、一度も尋ねたことも、聞きたいと思ったことも、自分にはなかった。

彼は自分がいかにエゴイスティックな人間だったかを始めて理解した。事件以来、彼は本当の意味では自分の苦しみしか眼中になかったのだ。口ではありがとう、感謝している、申し訳ない、といいながら、その実彼らには全く感謝したことになっていなかったのだ。この事実を彼は殴られたような痛みを感じながら理解した。

これで自分には謝らねばならないことがもう一つ増えたわけだ、と彼はいささか落ち込みながら考えた。だがそれでも、「いささか落ち込む」という具合のよさは彼にまた新しい希望を与えた。彼の精神状態は、例えていえば絶対零度か太陽の表面温度の6000℃のどちらかしかこれまでなかったから、この「いささか落ち込む」という10℃くらいの生ぬるさは新鮮な喜びだった。

しかし彼は気を引き締めて、ではどうすれば自分は青島にコンタクトを取れるのだろう、と考えた。母親が一番手っ取り早い。ドアから出て行って、ただ頼めばいいだけだ。

けれどおしゃべりの明子のことだから、自分の様子がおかしいとなったら必ず理由をあれこれ聞きまわって、そうすると折角すこし落ち着いたこの気持ちもどしゃどしゃに崩れてしまうだろうと思われた。なんとか事務的に───NTTの交換台の音声みたいに、事務的に聞き出せないものだろうか?

彼はもう一度電話を取り上げた。だが今度はほとんど着信専用になっている携帯電話のほうだった。古い番号を検索して、たぶんまだ変っていないはずだと思う。公的機関の番号は、よほどのことがない限り変更しないから。

なんで自分は青島の番号をアドレスに追加しておかなかったのだろう?と思う。事件以後のことではなく、以前のことだ。何回か、青島からかかってきたことがあったような気がする。まだ管理官をやっていたころ───ああ、でも、あの時は自分はあまりにも忙しすぎて、やっぱり「所轄の一刑事」(相当変ってはいたが)以上には見ていなかったのかもしれないな、と思う。実際、青島を特別に感じ始めたのは査問委員会にかけられた事件のあとからで、それ以前は好意に似たものは在ったにしろ友情には程遠かった。それ以降はこっちは畑が変って、たまにどこかですれ違ったら会釈を交わすくらいの疎遠さになっていたのだ。なんとなく、気持ちのいい風みたいな男だったな、とか、散文的な性格の自分にしては珍しい感想を抱いただけの。

室井はこうなる以前から、自分の苦しみを理解してもらおうと思ったことは一度もないし、共感されたいなどとも思ってはいなかった。だがそれは、ずいぶん独善的なことだったのではないか。判ってもらいたいと思わないことは、そのまま自分は相手のことを理解するつもりもない、ということに等しかったらしい。

青島が自分に向けてくれた配慮は巨額の借金となって、今彼に返済の時期が来たことを教えていた。

『湾岸署です』

コールは一回で繋がった。なかなかだ、と彼は湾岸署の対応に内心で高い評価を与える。彼は背筋をちょっと伸ばして息を一つ吸ってから、喉が震えないように願いながら声を出した。

「ええと…突然ですが、そちらの署にいる、青島刑事の自宅の電話番号を教えていただきたい。私は───」

『そのような個人的な質問にはお答えいたしかねます』

警戒もあらわに、若い警官の声が跳ね返ってきた。室井は一瞬目を見開いて、それからおかげで涙が引っ込んだことを感謝しながら続けた。

「確かにそうだろうが、私は、以前よくそちらには寄らせていただいた、元捜査一課管理官の室井です」

現在の役職を言う気になぜかならなかった。捜査一課管理官、と言うときの自分の声が一番強く太く聞こえるのは、やはりあの季節の緊張がどこかに残っているせいなのかもしれない。受話器の向こうで警官が直立する気配が伝わった。

『む…?!あ、こ、これは、申し訳ありませんでした、たいへんな失礼を…』

室井は体から力を抜いて、背もたれに身を預けた。

「いいえ。見知らぬものから、いきなり刑事の自宅の番号を教えろなんていったらそう対応するのが当然です。ただ、願わくば最後まで、聞いて欲しかっただけでね」

室井はゆっくりと、それから最後は冗談交じりに軽く答えた。───冗談!まったく、自分が冗談を言える日が再びめぐってくるとは。

『は、申し訳ございませんでした。つい、しょっちゅうマスコミから青島さんに───あ、いやこれはその』

「…マスコミ?」

眉がぎゅっと寄った。なぜマスコミが青島に?

それから気付く。原因は自分だ。

向こうでは小さく息を潜めている。この男は刑事には向かないな、と室井はため息を押し殺しながら尋ねた。

「…判った。で、すまないが、青島君の番号を教えてもらいたい。警務課でも刑事課でも、それが判るところに繋いでくれ」

『いえ、ここで判ります。よろしいですか?』

室井はメモとペンを用意してから、頼む、といった。告げられる番号を書き留める。親切な男は、それから住所も付け加えた。江東区新木場…レインボーブリッジを渡ったちょうど向かいくらいの場所だ、と思う。道路が空いていれば一時間半くらい。空いてなければ───東京の渋滞は、一度嵌れば時間をカウントはできない。

それに…直接行っても、会ってくれなかったら?彼はちょっと身震いした。そんなことはないだろう、と甘い期待をする自分がいる一方で、そんな場面を想像して縮み上がってしまっている自分もいた。

迷った挙句、彼は電話にすることにした。これなら、まださっき電話を切ってからそんなに経ってないはずだ。そして時計を見て驚く。わずか10分しか経っていない。

彼は思わず部屋を見回した。いつもの、自分の狭い6畳で、夜の闇の中でデスクのライトだけしかついてない。氷のように青白く蛍光灯を反射する漆喰の白壁には何もかかっておらず、本棚は仕事に関するものだけで───そうだ、自分はあれいらい小説も映画も見ていない、音楽すらも聞いていない、と気がついた。

閑散とした、荒れはてた、ぎすぎすというきしみがしそうな部屋の中で、自分はそれに気がつかず座り込んでいた。それがあれ以来の自分だったのだ。

彼は手の中の電話番号を見下ろした。こんなところに───こんな自分に、青島は半年以上ものあいだ黙って寄り添い、励まし、慰め、守ってきてくれたのだ。なのに自分はその献身に全く答えてこなかった。ただ自分を哀れんで、敵も見方も見境なしに傷つけてきた。

───青島が『もう来ない』といったのはもっともだ…。

電話に手を伸ばせないまま、手の中でメモはくしゃくしゃに捩れていっていた。

  *

その数ヵ月後

 

青山にある300人収容のホールは満席で、立ち見もでた。「犯罪被害者の会」が、DVのために運動するNPOや精神科医グループ、セクハラと闘う女性の会、男女平等参画社会を考える市民団体、従軍慰安婦問題解決に取り組むVAWNET Japanらと企画したシンポジウム≪被害者保護を考える――――司法・医療の現場から≫という真面目な企画がそれほどの人間を集めたのは、なにも警察の役人にして自身が犯罪被害者にもなった人物がパネリストとして参加したからではない。ただ、会場に集まった二流・三流の記者たちの目当ては、確かにその人物に集まってはいた。

会の趣旨として質問の時間を多く設けるため、5人の各界(警察庁警務課長・精神科医・被害者の会代表・弁護士・大学助教授)の代表パネリストは、各自持ち時間20分という短さで、超特急で各分野の概説を行った。それでも二時間半のうち、挨拶とそれぞれのタイムオーバーで、質問の時間はわずか30分になってしまっていた。

記者が一人、挙手した。

「室井警務課長に質問なんですが…あなたのお話ですと、犯罪被害者には、司法の立場からは、捕まえて、処罰して、あとは犯罪被害者への補償金ですね、これ以外にはとくに今後の対策として考えていない、というように窺えるのですが、そこのところはどうなんでしょう?」

「来た来た…」

青島は口の中で呟いた。彼は聴衆席の最前列、壇上の室井に一番近い席に陣取って、貴重な休日をこのシンポジウム参列に費やすことにした室井を見守っていたのである。

室井はしかし心配をよそに、にこやかに笑み、マイクを手元に向け直した。すこしハスキーな柔らかい声が、スピーカーを通してそれほど大きくない会場に流れた。

『いえ、そうは申しておりません。ただ、非常にソフトでデリケートな被害者保護という問題を、法的規制の枠組みの中や、官公庁としての主体的な取り組みとしておこなうことはどうかな、と考えているわけです。お役所仕事の欠点は私自身も理解しているつもりですので、それよりは、今ここに集まっているような諸団体へ資金援助をしていくとか、NPOと各関係公庁とのネットワーク作り、情報公開と情報提供など、そういうすでにある資材を生かしていく、そういう取り組みを一層やっていくことが必要ではないかと思っています。』

マイクを握った記者は畳み掛けるように尋ねた。

「しかし、ご自身が被害者となられた警視正におかれましては、もっと手厚い保護や対策が必要とは思われませんか?そのための立法処置なり政策なりがとられるべきだとは思われませんか?」

青島は舌打ちし、室井の過去についてどうしても何かを引き出そうとする意図が透けて見える発言者に、質問する権利を与えたままの司会者を睨みあげた。

(こんな質問打ち切らせろ、役立たず!)

しかし青島から送られた凶悪な視線のせいではなく、(彼女は青島のほうを見てはいなかった)、彼女も発言者の質問の裏に不穏な意図を嗅ぎ取ったらしい。彼女は穏やかな表情を崩さないでいる室井の方をちらりと見た。彼の隣の精神科医が室井の耳に口を寄せて何か囁いたが、室井は微笑して何事かを囁き返し、それから司会に頷いてから卓上マイクに手を添えた。彼はまるで、職場の何の問題も起きていない日の和やかな定例会議に出席しているみたいに、完全にリラックスして見えた。しかし切り返された彼の答えは、記者の質問に含まれたものを見抜いた上でのものだった。

『単刀直入に申し上げれば、私はそのようなことを行政側がする必要があるとは考えていません。その理由をご説明するために、ちょっと遠回りですが、先ほどからずっと考えていたことをついでに言わせて頂きたいと思います。

というのも、これまで何度か出てきた"フラッシュバック"というタームですが、これをきちんと定義して置いた方がいいかもしれないと思ったのです、よくご存じなくて使っていらっしゃる方が多いように思いますので。

私は医者ではありませんので、自分のこれから言うことが正確かどうかは知りませんが、もと患者として経験したところから言わせていただきますと、フラッシュバックというのは、単なる記憶の再生ではありません。それは再体験と言った方が正確なものです。他人のたとえであなたには申し訳ないんですが(と室井はちらりと、記者に向かって悪魔的な笑みを浮かべた)あるベトナム帰りの兵士は、ディーゼルエンジンの匂いを嗅ぐたびに戦場を思い出すそうです。当時の戦車はディーゼルだったそうで、その匂いを嗅いだ瞬間、彼には"実際に"兵士たちの絶叫と爆弾の落下音が聞こえるんです。そしてあの時感じた死の恐怖を、30年後の今もそのままに感じるんです。彼にとってベトナム戦争は、教科書の歴史の記述ではありません。言い換えれば、彼は今でもベトナムにいます。だから彼はディーゼルの匂いを嗅ぐと半狂乱になって、ヘタをすると壁からライフルを取り上げて、庭の立ち木に向かって撃ちまくる、なんて行動に出てしまいます。フラッシュバックが単なる"嫌なことを思い出して気分が落ち込むこと"などの可愛らしいものとは全く違うんだということを、これでお判りいただければと思うんですがね。

さて、では、ご質問は、患者のためにもっと行政の支援を、ということだったと思いますが…しかし、このような症状を解決するために、いったい警察を含め、裁判所や検察で何ができると思われますでしょうか?

率直に申し上げて、このような症状を取り扱うのは警察の仕事ではなく、医者の仕事だと私は思っています。司法行政としましては、犯人を捕まえ、処罰し、せいぜいが被害者やご遺族に補償金を支払い、そして援助を行っている機関や団体の存在を被害者の方にお知らせする、そういう程度のことしかできまいと、私自身は思うわけです。もしそれ以上のことをやろうと思ったら、司法機関はまず精神科医を雇うか、それとも警察官をはじめ全司法関係者に医学部の精神病理学科の卒業証書を所持することを条件付けるかしなければなりませんでしょう。

それからさらに、現在は厚生労働省の管轄である公的扶助基金を運用し、被害者駆け込み寺であるシェルターを運営し…と際限なく警察の職掌は広がっていって、結果として警察予算も莫大なものになり、いわば≪警察国家≫とでも言うべきポリス=ガバメントがわが国に出現することになるでしょう。まあこれはおとぎ話ですが、しかし、警察は犯罪の防止・取締りがその本分であるという方針は、今後ともわが国において変わりない原則だと思います。要するに、被害者の内面世界にまで警察という公権力が踏み込むことは現実的ではありませんし、そしておそらく、可能でもないでしょう。被害者の内面は、法律や警察や裁判所や───そしてマスコミが、踏み込める領域ではありません。そこは被害者とその家族と友人と医者だけしか踏み込めない、極めてプライベートな領域です。警察は、そこまで介入しません。これまでもしてこなかったし、これからもするつもりはありません。

長々と申し上げましたが、貴方のご質問に対して、行政官として申し上げることはまとめて云えば以下のことです。警察は、捜査し、逮捕し、被害者を援助し、バックアップのための情報提供もします。しかし治療はしません。以上です。ご理解いただけますと幸いです。』

青島が音のしないように拍手している。付け込む隙のない完璧な回答に、完敗した態の記者は首をすくめるように一礼すると、彼の発言権をようやく放棄した。次の方、という司会の声に、いっせいに何人かの手が上がったが、もはやその中にマスコミ関係者はいなかった。司会は若い女性にマイクを渡すようにスタッフに指示を送った。マイクを握った女性はやや甲高い神経質な口調で早口で喋りだした。

「あの…ちょっと個人的かもしれないのですが、私の友人がやっぱりセクハラでPTSDになりまして…家から出なくなってしまったりとか、話もできなくなったりとか、なんですけど。それで、私は彼女に何もできなくて、非常に心苦しくて…で、伺いたいのは、一体どういうときに、そのフラッシュバックというものが起きるのかということなんです。そういう症状を持つ人に対して、私たちのほうから何を言っていいのかとか悪いのか、とか、何をしていいかとか、そういうことは一概に言えるものなんでしょうか…?」

『誰へのご質問でしょうか?』

まとまりの悪い質問に、司会はクールに尋ねた。質問した若い女性はますます顔を赤らめた。

「あ、誰でも…精神科医の先生か、被害にあわれた方でも…」

精神科医と室井とは顔を見合わせて笑った。今度は精神科医の佐藤が卓上マイクに口をよせた。穏やかな、だが簡潔な答えが返った。

『答えは、"いろいろな時に"です。それ以外に云いようがありません。PTSD保持者が受けた外傷の内容に寄りますから、そのお友達の方の話を注意深く 聞いていれば、彼女にとって何が辛いかは判るはずですよ。』

「でもあの、そういうこと自体を話そうともしない場合は…」

(バカじゃないのか、この女)

青島はぐずぐずと拘っている若い女性を睨みつけた。お前に話そうともしない、というのなら、それはお前が相手に信用されていないというだけのことじゃないか。

青島と同じ感想を抱いたにしろ、精神科医はそうあからさまに言うわけにはいかなかった。彼はかすかな苦笑を浮かべると、

『そうですね、あなたはお友達の方を心配して、いわば"地雷"を踏まないためにそういうことを知っておきたいと思われているということなのでしょうが、患者にとってはそれを口に出すことは――――つまり、"地雷の在処"を云うことは、地雷を踏むのと同じことなんですね、記憶を直視したら全部フラッシュバックしちゃいますから。で、フラッシュバックが起きてしまうと、その方は会話どころではなくなっちゃいますね。だから彼女は話さないんだと思いますよ。ですので、そのお友達の方が自然に話してもいいと思えるようになるまで、じっと待ってあげるのが一番と思いますよ。』

それから佐藤医師は会場全体に、いや、記者たちがいるあたりに向きなおって、ゆっくりと、静かな口調で語りかけた。

『こころの問題には残念ながらハウツーは存在しません。これ一発で救える、とかいう薬も法則も存在しません。みなさんもご存知と思いますが、人間は黒と白だけで割り切れるものではありませんから…一見悪く見えることも、その症状の中に未来への回復の種子が含まれていることは珍しくありません。逆に回復の兆候に見えることがその逆に繋がることもあります。ですから大切なことは、静かに見守りながら、待つことだけです。患者さんの抱いている苦しみは、小手先の技術や涙ながらの告白などによって軽くしたり消し去ったりすることができるようなしろものではありません。僕は、ですから、そういう患者さんには何もしません。ただいっしょに、静かに、その人の幸福と回復を信じて、苦しむ姿を見守っているだけです。そしてそれが一番、"親切な"日本人には───特に日本のマスコミさんには、できかねることなのかもしれないなあ、とも思うことがあります』

医師の穏やかだが冷ややかなものを含んだ言葉に、会場の視線は一瞬、厚顔な記者たちの上に集まった。

 

帰りの車の中で、青島はまだぶりぶり言っていた。単に夜の都心の渋滞にひっかかって苛立ちが募っているせいばかりではない。

「まったく、なんなんだあのバカどもは」

「そう怒らなくても。総じてそれほど悪くもなかったじゃないか───正直言えば、もっと酷いのを想像してたくらいだったし」

「そうなんですか?」

青島は助手席の室井の横顔に確認するような視線を送り込んだ。

今回のシンポジウムの出席依頼は、実は母親の明子を経由して持ち込まれたものだった。彼女は息子の件があってから、この手の被害者救済運動に関する知識を片端から集めるようになり、今では秋田県で起きたセクハラ事件の被害者の応援にまで手を出している。そのツテで、彼女の息子が現役の警察官僚であることを知った知人から、息子さんにぜひ被害者救済と警察行政とのかかわりについて話をしてもらえないかと頼まれたのである。

彼女は迷いながらも息子に電話を入れてきた。

『…まあ、というわけで、このシンポは事件のことを話すわけじゃないのだけれど』

と、電話の向こうの声は、賛成とも反対とも言いがたい口ぶりだった。

『青山のJ会館の400人ホールで、日にちは6月10日。まあ一応日曜だし、公判とも重ならないけれど…ともかく、彼女には聞いてみなきゃ何とも言えないって伝えといたわ。でも、返事はなるべく早く欲しいんですって。あなた、どうする?母さんは、いくら事件とは無関係のシンポジウムだとは言っても、もしかしたらあのことを聞かれるかもしれないって思うと、考えちゃって。』

「彼女は信用できる人だから、その点については心配要らないと思うけどね」

息子は心配げな母親に落ち着いた声で答えた。

「ただ、職場に一言申し入れておく必要があるかもしれない。もし良いという事になれば、構わないよ、引き受けても。丁度そういうことを世間にも知っておいて貰いたいと思ってたし…」

青島はその声に含まれるものに何かを感じて新聞から頭を上げると、ボールペンを片手にメモを取る室井を背後からじっと見つめた。

「いや、大丈夫。───うん、直接俺から連絡入れるから。…その電話番号はファクスも一緒?そう。判った」

それから彼は顔に笑みを刷いた。

「元気、元気。ちゃんと食べてるよ。───親子丼。青島が作ってくれた。」

室井がくすくす笑いながら青島を振り返って視線を送ってきたので、青島も自然に笑い返していた。室井と自分と彼の両親とだけなら、世界は完全に平和で、穏やかで、暖かい場所だった。だが彼は電話が少し気になった。

「うん、まだいるよ。話したい?…じゃあ代わるけど、あんまり長話すんなよ。夜勤明けで来てくれたんで、疲れてるだろうから」

室井は言いながら青島に近寄り、それから子機を差し出した。早く切り上げていいぞ、と口だけで言う。青島はウィンクで返すと、愛想よくおしゃべり好きの室井の母親と話すために子機を受け取った。実際、彼は明子と話すのはいつでも歓迎だった───ただ彼女と話しをするより、たとえ一言も交わすことがなくとも、室井と二人きりで過ごす満ち足りた沈黙のほうが彼としては好きなだけだった。


「俺は反対です」

電話を切ったあとまっさきに青島が言ったのは、この言葉だった。
室井は青島の剣幕に目を瞬かせたが、母親との電話の途中から青島の顔つきがみるみる険しくなっていくのを観察していたので、ある程度予想済みだったのであろう。彼は軽く肩をすくめただけで、冷蔵庫から取って来たビールを青島の前に置いてやった。

「絶対ヘンなマスコミ連中が押しかけてくるに決まってますよ」

「まあ、ある程度は来るだろうな。」

室井は食卓に広げてあった書類を取りあげ、めくりながら答えた。青島はビール缶をどかして腕を伸ばし、室井が手に持っている書類の上に自分の手を乗せて室井の視界を遮った。

「室井さん、真面目に聞く。───こんな話、引き受けることないすよ。やるにしたって、誰か他の奴にやらせればいい。」

「私はいつだって真面目だ、もうちょっと不真面目になりたいと思ってるくらいだ」

軽口で返した室井は、青島の手が載っているせいで字面を追えなくなった書類から手を離すと、例のくせで指を組んだ。そして本当に真面目な顔になってその手を眺めながら続ける。

「君の心配も判る。だがリスクは承知の上だ。この話はそう悪くないと思うんだよ。それどころか、今やっている仕事の宣伝になる気がする。だから引き受ける。」

室井は例の事件のあとしばらくしてから、警備課長代理から現在の警察庁の警務課長代理職へと異動していた。この人事は、比較的物議を醸さずに終わった珍しいケースだった。以前の地位に比べれば、出世とはいえない。だが室井の身に起きた事件はあまりにも有名で、しかも室井は二ヶ月も警備課長の職を休んだ。幾らその後にフォローを入れたにしろ、彼の心身を思えば異動させるのは当然の措置だった。そして警務課長代理なら刑事警察の多忙さとは無縁だ。この職場の担当する戦場はパソコン上にあり、主な敵は犯罪者ではなく、予算削減を主張する財務省と、予算拡大を要求する警察内の部署なのだから。

初めこの異動を喜ばなかった青島は、(彼は室井にはいつまでも刑事畑を歩いてもらいたいと願っていたからである)しかし直ぐにこの考えを改めた。殺伐とした刑事畑や外事畑の仕事が室井の精神に悪影響を与えていると、彼はようやくにして気がついたからである。

考えてみれば室井は他人の身に起きた犯罪と、自分の身に起きた事件とを切断して考えることができる状態には、まだその当時は程遠かった。(しかし、いったいいつになったら室井が凶悪犯罪を"他人事"として受け取れるようになるのかは神のみぞ知るだが。)ともかく刑事警察とは直接関係ないマネージメント業務への異動は、当時の室井にとっては僥倖であった。そして意外なことに、室井はこの分野でこそ、彼のあの"経験"を生かすことに、成功しつつあったのである。

 

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28082002

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